笛 |
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うらわかき春の日は逝きてかへらず 無花果(いちじく)の木のもとにパアンよ われのうづむるを受けたまへ 老らくの身に やうもなき笛ひとつ 音こそかはらね |
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竹友 藻風(たけとも そうふう 1891-1954)は英文学者にして詩人、今やほとんど忘れ去られている感もありますが、存命中にはシェイクスピアの戯曲やダンテの「神曲」などの翻訳もしていたようです。西洋文学の素養からこんな詩も書いたのでしょう。詩の響きは日本情緒纏綿としてはおりますが、これは古代ギリシャの牧神(パン)の姿を描いたもの。詩人自身と思われる解説が次のようについております。
〔マケドニウス(6世紀)のうたに
ダフニスといへる笛吹きのこころを
詠みしものあり パアンは
野山を司る神 蘆笛の妙手なり〕
清瀬の曲はもともとピアノ伴奏だったようで、Victorから出ていた日本名歌曲選集では伊藤京子のソプラノに三浦洋一のピアノで収録されていましたが、以前触れましたNaxosにあるフルートとハープの伴奏による編曲が目の覚めるような効果でそれよりもずっと鮮烈で印象に残りました(正木裕子のソプラノにマルク・グローウェルスのフルート、イングリッド・プロキュルールのハープ)。
( 2015.04.10 藤井宏行 )