沙羅 沙羅 |
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林、音なく 日の暮は ゆめのごとし 眞玉(またま)夕つゆ おもくして 沙羅の花ちる さ丶ら 沙羅の花 ほの黄色(きいろ)なる |
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歌曲集のタイトルにもなっている「沙羅」が第4曲目に来ます。沙羅の花というのは6月頃に咲く夏椿のこと。形は椿に似た花ですが色は白い花びらで中央部分が黄色ですのでかなり印象は違います。夏の日暮れ時にこの白い花びらが音もなくはらはらと散っている情景を静謐に歌い込んで行きます。ゆったりと間を取ったピアノ伴奏も含めてこの歌曲集でも断トツの幻想的な歌で印象に残ります。最後の節の「さ丶ら沙羅の花」のところ、高声の歌手は1オクターブ高く歌うこともできるようで、そう歌っているのを聞くとなおさらこの世のものならぬ美しさが感じられます。
Torofonというドイツのレーベルから出ているテナーの大野一道氏がこの歌曲集を歌っているCDを10年ほど前に手に入れたものをこの歌曲集を取り上げるにあたり改めて聴き、この部分の絶妙な味わいを堪能しました。レッジェーロな声質のテナーの方にはもっともっと取り上げて欲しい歌曲集ですね。
( 2015.03.28 藤井宏行 )