北秋の 沙羅 |
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北秋(きたあき)の 峡(かひ)のこヾしき道のくま わが見し花に 名づけてよ 君 いなむしろ 君によそへて 呼ばましものを みつみつし 白く小さき 北秋(きたあき)の花 |
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三曲目は楚々と優雅なメロディ。かなり西洋風のテイストで、山田耕筰の歌曲に時折見られるバタ臭さが同じようにドイツに留学したことのあるこの信時にも見られることが分かって興味深いです。「北秋の」とあるのは地名でしょうか。北のとある地の秋のとある日とも読めるのですが、そこの山道の折れ曲がったところにひっそりと咲いている可憐な花を見つけて、ふと恋人のことを思い出して、「この花に名前を付けて いや君をこの花となぞらえて呼ぼう」とそこにはいない恋人に語りかけています。
この歌曲集が1935年頃の作だそうですから、作詞の清水は1909年生まれということでまだ二十代の半ば、そう思って聴くと瑞々しい愛の詩ですね。第1曲「丹沢」もそうですが、彼は山歩きが趣味だったのでしょうか。
みつみつし(清水の原詩では「みつし」)がちょっと意味が調べきれなかったのですが、「神々しいばかりの」といったところではないかと思います。
( 2015.03.21 藤井宏行 )