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丹沢    
  沙羅
 
    

詩: 清水重道 (Shimizu Shigemichi,1909-1958) 日本
      

曲: 信時潔 (Nobutoki Kiyoshi,1887-1965) 日本   歌詞言語: 日本語


枯れ笹に陽(ひ)が流れる、背に汗
うらうらと雲さへも、冬なのに
尾根長く檜洞(ひのきぼら)こえて響く澤おと
どの山も崩土(がれ)の色だけは凍(い)ててゐる

塔のむかふ町並み光らせて秦野(はたの)
見やる天城(あまぎ)も明るい草附き
雪の来ぬ冬山のくぼに 煙草吸うて見る
ひとり



今年没後50周年を迎える作曲家信時潔、重厚で剛健な音楽を書いた人でしたが、それだけに派手さとは無縁だからでしょうか、時を経るごとに忘れられて来ているような感もあります。この代表作とされる歌曲集「沙羅」にしても、素晴らしい音楽ではあるのですがあまりに言葉が今の世には難しくなってしまいました。外国語の歌曲を聴いているという程ではありませんが、断片的に日本語が聞こえるが全体として何を歌っているのか分からない、というのが今の日本人の正直な感覚ではないでしょうか。
現代語訳をするほどの野暮なことはしたくありませんが、私の分かる限りの補足をして、この放って置くと忘れられかねない日本歌曲の傑作のひとつをここで記録に残して置きたいと思います。
作詞者の清水重道はどの解説書を見ても、信時の東京音楽学校時代の同僚の国文学者とあるだけで、詳しい経歴が書かれておりません。
没年が分からないと著作権が切れているかどうか分からないのでこのサイトとしては切実な問題です。
日本歌曲の紹介を今恐らく一番積極的になさっている小川明子さんの伴奏者・山田啓明さんがブログでこれを苦労して探索された顛末が書かれておりました。結論から申しますとこの人の生没年は1909-1958ということで、日本の著作権はクリアです。安心して詩を取り上げることと致しましょう。

1曲目は固有名詞はともかく、それほど難しい内容ではありませんね。冬の丹沢の山をひとり登る爽快感とそして孤独感に浸る主人公のモノローグです。檜洞も塔も丹沢にある峰の名(ちなみに「唐のむかふ」のむかふは「向こう」ですね。山の上から見る雄大な情景が爽やかな感激を呼び起こします。最後につぶやかれる「ひとり」という一言がとても印象的。
秦野は丹沢の麓にある町ですね。天城は遠く伊豆の山々です。草付きとは急な岩場に低木や草が生えているところだそうで、さすがに丹沢からは天城の草付きは見えないと思いますけれども。

( 2015.03.07 藤井宏行 )


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