春のあした |
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紫色の春のあしたの靄のうちより ほがらかに鳴りいずる鐘の音あり 七色の虹のふもとの 土の肌より しづかに人の子の産まれる けはいあり 母なる人よ ひざまづきて 産まれるもののために 祷(いのり)たまえ |
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日本の伝統音楽のスタイルを生かした歌曲を書いていた藤井清水ですから、セノオ楽譜の「夢二の歌」シリーズには打ってつけの人材でしたでしょう。昨年(2013)リリースされたCD「夢二の歌〜セノオ楽譜表紙絵による歌曲集」(Belta:及川音楽事務所)でも主催者の妹尾幸陽と並ぶ最多の5曲が収録されております。結構半音階なども駆使した技巧の限りを尽くした作品が多く、手軽に歌うといった感じではないのが面白いところ。これではあまり楽譜は売れなかったのでは?と要らぬ心配までしてしまいます。
この夢二の詩、何とも不思議な情感を漂わせていますが、これは聖母マリアの受胎告知のことを歌ったもの、キリスト教の受胎告知の記念日が3/25ですのでまさに「春のあした」。そういう意味で日本情緒纏綿という訳には行かなかったのでしょう。夢二の表紙絵ももちろん赤い服を着た洋風の女性です。彼女が縋りついている木の上には幼子イエスの顔が浮かんでいます。
( 2014.11.29 藤井宏行 )