蘭燈 |
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和蘭(おらんだ)屋敷に提灯(ちょうちん)つけば ロテのお菊さんはいそいそと 羞恥草(はにかみぐさ)は窓の下 玉蟲色の長椅子に やるせない袖打ちかけて サミセン弾けばロテも泣く |
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つい先だって取り上げたフランスの作曲家モーリス・ドラージュの歌曲集「七つの俳諧」の詩を書いた(より正確には日本の俳句や和歌をフランス語に訳した)日仏ハーフの女性作家山田萄(1897-1975)、フランスの作家ピエール・ロティの書いた小説「お菊夫人(マダム・・クリザンテーム)」の主人公の名は彼女から取られたと言われています。日本の港町を舞台に、ひとりの外国から来た海軍士官の現地妻となった女の悲恋物語。同工異曲のテーマでアメリカのロングが書いた「蝶々夫人」はプッチーニのオペラとなって世界的に有名となりました。ロティ自身も海軍士官で日本を訪れており、1885年には長崎に滞在し、お菊という名ではなかったようですが、まさにそんな現地妻を囲ったのだとか。その体験なども踏まえて1893年に書いたのがこの「お菊夫人」なのだそうです。
ここで取り上げた、大正ロマンの幻想的な情景そのものといえる夢二の詩、このロティとお菊夫人が登場していますね。気だるい雰囲気が夜の灯りに溶け合ってなかなか風情があります。ちなみに「サミセン」は三味線のことでしょう。ここの部分、「蘭燈つけばロテも泣く」となっている本居の書いたメロディは必ずしもそんなアンニュイなものではなく、爽やかな主部と短音階に沈む中間部の対比が面白い曲です。
昨年(2013年)、この夢二生誕130周年を記念してリリースされたCD「夢二の歌〜セノオ楽譜表紙絵による歌曲集」(Belta:及川音楽事務所)の冒頭に石田祐華利さんのソプラノ、御園生瞳さんのピアノで収録されていました。またこのCDの表紙絵にこの「蘭燈」の夢二の作品が使われています。三味線を弾く赤い着物のお菊さんの後で緑の軍服を着て泣いているロテの後ろ姿が見えます。
( 2014.11.29 藤井宏行 )