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Nuvoletta   Op.25  
 
ヌボレッタ  
    

詩: ジョイス (James Augustine Aloysius Joyce,1882-1941) アイルランド
    Finnegan's Wake(フェネガンズ・ウエイク)  Nuvoletta in her lightdress,spunn of sisteen shimmers

曲: バーバー (Samuel Barber,1910-1981) アメリカ   歌詞言語: 英語


Nuvoletta in her lightdress,spunn of sisteen shimmers,
was looking down on them,leaning over the bannistars
and listening all she childishly could. . . .

She was alone.
All her nubied companions were asleeping with the squirrels. . . .

She tried all the winsome wonsome ways
her four winds had taught her.
She tossed her sfumastelliacinous hair
like la princesse de la Petite Bretagne
and she rounded her mignons arms
like Mrs. Cornwallis-West
and she smiled over herself
like the image of a pose of a daughter of the Emerour of Irelande
and she sighed after herself
as were she born to bride with Tristus
Tristior Tristissimus.
But,sweet madonine,she might fair as well
have carried her daisy's worth to Florida. . . .

Oh,how it was duusk!
From Vallee Maraia to Grasyaplainia,dormimust echo!
A dew! Ah dew! It was so dusk that the tears of night beagn to fall,
first by ones and twos,then by threes and fours,
at last by fives and sixes of sevens,
for the tired ones were wecking,as we weep now with them.
O! O! O! Par la pluie! . . .

Then Nuvoletta reflected for the last time
in her little long life
And she made up all her myriads of drifting minds in one.
She cancelled all her engauzements.
She climbed over the bannistars;
she gave a childy cloudy cry:
Nuée! Nuée!
A lightdress fluttered
She was gone.

ヌボレッタは十六重織りの普段着を着て
かれらを見下ろしている、手摺りの上にもたれかかりながら、
精一杯子供っぽい仕草で耳を傾けながら。

彼女は孤独だった
彼女のヌビィな仲間たちはみな、リスと眠っていた...

彼女はあらゆる魅力的な仕草を試みた
彼女の四方の風が教えてくれた仕草を
霞星色に輝く髪をなびかせている
小ブルターニュの王女のように
そしてまた細い腕を差しだした
ミセス・コーンウォリス・ウエストのように
さらには自分に微笑みかけた
アイルランドの皇帝の娘の肖像画のように
自らを嘆き溜息をついた
まるで花嫁となるために生まれたかのように トリスティスや、
トリスティオール、リスティスムスの花嫁に
だが、かわいい娘よ、彼女はした方が良かったのだ
彼女のヒナギクのような値打ちをフロリダまで運ぶことを

おお、なんと暗いのだ!
マライア谷からグラシアプラニアまで眠りの木霊!
露よ! ああ、露! とても暗いので夜の涙が滴る、
一粒、そして二粒、それから3つ、4つ
ついには5つ、6つ、7つと。
私たちが涙を流す時、疲れた涙が目覚めるように。
おお!、おお!、おお! Par la pluie...(雨だ...)

それからヌボレッタは振り返った
自分の短い生涯を
そして揺れる数千の気持ちをひとつにした
彼女はすべての約束を取り消した
彼女は手摺りを乗り越えた
彼女は子供のようなくぐもった叫び声を上げた
Nuee! Nuee!
軽やかなドレスはひらめき
彼女は消えてしまった


よりによってこんな難解な詩にチャレンジする物好きもないのですが、これはかの20世紀アイルランドの生んだ怪人作家・ジェームス・ジョイスの奇作、フェネガンズ・ウエイクの一節です。小説自体が夢の中で溢れ出るイメージをそのまま叩き付けたような筋があるのかないのか分からないようなものですし、ヨーロッパ諸国語が次から次へと繰り出し駄洒落や語呂合わせを形成しているので、こんなものを真面目に訳しても意味の10%も伝わらないようではあります(いや、そもそも伝えるべき「意味」が存在するのでしょうか...?)。
河出書房から出ている、柳瀬尚紀氏訳の本をちょっとだけ参照させてもらいましたが、原文と照らし合わせて何十回読んでも私には上記のような訳しかできませんでした。まあ、ぜひ原典をご覧下さい(上巻の171ページです)。柳瀬氏の該博な言葉に対する教養と語呂合わせの天才的な技が堪能できます。2ページも読むと頭がくらくらしてくること請け合いですが、凄い体験です。私はとても全部読み通すことはできませんでしたけれども...

この詩にバーバーが付けた音楽は、しかしながらとても流麗な、ブロードウエイミュージカルの一節といっても通るような美しい主旋律のモチーフに、前衛音楽的な不思議な味付けをしていてとても面白い聴き物です。最後の欄干から飛び降りるシーンなどはさりげなく、あっさりと終わってしまいますが、半ば現実・半ば夢うつつの世界を見事に描写した傑作と言えるでしょう。
この曲の録音は結構出ていて、Etceteraにあるアレクサンダー(Sop)のもの(バーバー歌曲集)の美声、VOXの2枚組のアメリカ歌曲集Love's Secret(アメリカ歌曲を俯瞰できる良いアンソロジーです)の中のE.Steberのソプラノの軽やかさ、更に極め付けのものとしては作曲者自身のピアノ伴奏によるレオンタイン・プライス(Sop)の絶唱もありますが(BMG)、やはり解釈や歌唱の迫力の点でも、新しいバーバー歌曲全集のシェリル・スチューダーのもの(DG)に軍配が上がるのではないでしょうか。

( 2002.11.14 藤井宏行 )


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