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Romans Niny   Op.102  
  Maskarad
ニーナのロマンス  
     劇音楽 仮面舞踏会

詩: レールモントフ (Mikhail Yur'yevich Lermontov,1814-1841) ロシア
    Маскарад (1835-6)  Когда печаль слезой невольной

曲: グラズノフ (Aleksandr Konstantinovich Glazunov,1865-1936) ロシア   歌詞言語: ロシア語


Kogda pechal’ slezoj nevol’noj
Promchitsja po glazam tvoim,
Mne videt’ i ponjat’ ne bol’no,
Chto ty neschastliva s drugim.

Nezrimyj cherv’ nezrimo glozhet
Zhizn’ bezzashchitnuju tvoju,
I chto zh? JA rad, chto on ne mozhet
Tebja ljubit’, kak ja ljublju.

No esli schastie sluchajno
Blesnet v luchakh tvoikh ochej,
Togda ja muchus’ gor’ko, tajno,
I tselyj ad v grudi moej.

悲しみの涙が思いがけなくも
あなたの目からこぼれ落ちても
私の心は痛みはしない
あなたは別の人と一緒でも不幸なのだから

見えない虫がひそかに食い荒らす
あなたの大切な人生を
でもそれが何?私は嬉しい、あの人が
私ほどにはあなたを愛していないから

でももしも、幸せの光が突然
あなたの瞳に輝いたのなら
その時私はひそかに苦しむでしょう
胸の中に地獄を感じながら


ハチャトゥリアンのものが有名なレールモントフの戯曲「仮面舞踏会」の劇伴奏音楽ですが、グラズノフも作曲しており、ヤブロンスキー/ロシアフィルの演奏で聴くことができます。さすがバレー音楽で鳴らした作曲家だけあって、豪壮な舞踏会の雰囲気を見事に描き出した素敵な音楽になっています。歌詞のない合唱が絡み合うのも印象的。舞踏会のシーンの音楽をメインで集めたようなので、残念ながらこの「ニーナの歌」は収録されてはいませんが。
この劇、虚飾と妬み合いにあふれたロシアの貴族社会で、主人公のアルベーニンが仮面舞踏会で腕輪をなくした妻のニーナに浮気の疑いを抱くように仕向けられついには毒殺してしまい、最後は罠にはめられていたことが明かされて発狂するという、シェークスピアの「オセロ」のような筋のお話、このニーナの歌はオセロで言えば「柳の歌」にあたる、失われた愛情を悲しみ、心の苦悩を吐露する歌でしょうか。第3幕第1場の舞踏会の中の余興で歌を所望されたニーナが、昔のロマンスと言ってピアノで弾き語りをする歌です。草鹿外吉の訳したものが「レールモントフ選集2(光和堂)」で読めますがそこでは男言葉で歌われております。つまり本来男心を歌った歌を女性が歌っているということなのですね。ちなみにこの直後にニーナはアイスクリームに混ぜた毒を摂らされて殺されますので、この歌自身が知らず知らずのうちに主人公アルベーニンの心を代弁しているかのような運命の皮肉。しかもこの歌には4番があるという設定になっていて、それをまさに彼女が歌おうというときにアルベーニンが入ってきて結局歌の結末は歌われないという展開。実ににくい使い方だなと感心させられました。

ハチャトゥリアンの書いた同じ歌がけっこう濃密なド演歌になっていたのに対し、もう少しグラズノフのものは洗練された感じです。古い録音ですがアントニーナ・ネジダーノヴァ(Sp)がピアノとチェロの伴奏で歌っているものがあり、セピア色の枯れた雰囲気が曲想に良く合ってとても素敵な聴きものでした。
新しい録音ではグラズノフ歌曲集(Northern Flowers)にあるリュドミラ・シキルティル(Sp)のもの。これも清楚な感じが良いです。ネジダーノヴァのと伴奏のメロディが全然違っていますが...

( 2014.09.16 藤井宏行 )


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