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A Survivor from Warsaw   Op.46  
 
ワルシャワの生き残り  
    

詩: シェーンベルク,アルノルト (Arnold Schonberg,1874-1951) オーストリア
      

曲: シェーンベルク,アルノルト (Arnold Schonberg,1874-1951) オーストリア   歌詞言語: 英語


I cannot remember ev’rything,
I must have been unconscious most of the time;
I remember only the grandiose moment
when they all started to sing,as if prearranged,
the old prayer they had neglected for so many years -
the forgotten creed!

But I have no recollection how I got underground
to live in the sewers of Warsaw for so long a time.

The day began as usual: Reveille when it still was dark -
Get out! Whether you slept or whether worries kept you awake the whole night:
You had been separated from your children,from your wife,from your parents;
you don’t know what happened to them; how could you sleep?

The trumpets again -
Get out! The sergeant will be furious!
They came out; some very slow: the old ones,the sick ones;
some with nervous agility.
They fear the sergeant. They hurry as much as they can.

In vain! Much too much noise; much too much commotion - and not fast enough!
The Feldwebel shouts: »Achtung! Still gestanden! Na wird's mal?
Oder soll ich mit dem Gewehrkolben nachhelfen?
Na jut; wenn ihr's durchaus haben wollt!«

The sergeant and his subordinates hit everyone:
young or old,strong or sick,guilty or innocent.
It was painful to hear the groaning and moaning.

I heard it though I had been hit very hard,
so hard that I could not help falling down.
We all on the ground who could not stand up were then beaten over the head.

I must have been unconscious. The next thing I knew was a soldier saying:
»They are all dead«,
whereupon the sergeant ordered to do away with us.
There I lay aside halfconscious.
It had become very still - fear and pain -

Then I heard the sergeant shouting: »Abzählen!«
They started slowly and irregularly: one,two,three,four
»Achtung!« the sergeant shouted again,
»Rascher! Nochmals von vorn anfangen!

In einer Minute will ich wissen,
wieviele ich zur Gaskammer abliefere!
Abzählen!»

They began again,first slowly: one,two,three,four,
became faster and faster,so fast
that it finally sounded like a stampede of wild horses,
and all of a sudden,in the middle of it,
they began singing the Se'ma Yisroel.


Sh'ma Yisroel Adōnoy elōhe noo Adōnoy ehod
V'ohavto es Adōnoy elōheho b'holl'vov' ho oov'hol nafsh'ho oov'hol m'ō deho
V'hoyoo hadd'voreem hoelleh asher onōhee m'tsav v'ho hayyōm al l'vove ho
V'shinnantom l'voneho v'dibbarto bom b'shivt'ho b'veteho
oov'leht'ho baddereh oov'shohb'ho oov'koome ho.

私は何も思い出せない
ずっと無意識でいたに違いない ほとんどの時間を
覚えているのは唯一 あの荘厳な瞬間だけだ
彼ら全員がまるで事前に示し合わせたかのように歌い始めたときのこと
古い祈りを それは何年も放置されていたもの
忘れられていた信条!

だが私には全く記憶がない どうやって地下に至り
ワルシャワの下水道に暮らすことになったのか かくも長い間

その日もいつものように始まった:起床ラッパはまだ暗いうちに鳴った
起きろ!お前が眠っていようと 心配で一晩中目を覚ましていようともだ
お前はずっと離れ離れだ お前の子らから お前の妻から お前の両親から
彼らに何が起こったのかは分からぬのにどうして眠っていられよう?

再びラッパが -
起きろ!軍曹殿がお怒りになるぞ!
彼らは出てきた 幾人かは非常にゆっくりと:老人や病人たちだ
別の幾人かは神経質な敏捷さで
彼らは軍曹を恐れている 彼らはできる限り急いでいるのだ

無駄だ!あまりにも多くの騒音 あまりにも多くの混乱 - それに速さも十分ではない!
軍曹は叫ぶ:»気をつけ!しっかり立て! しゃんとできんのか? 
それともこの銃床の助けがいるのか?
良いだろう 貴様らがそうして欲しいのならな!«

軍曹と彼の部下どもは皆を殴った
若者も老人も 静かな者も興奮した者も 罪ある者も無垢な者も
苦痛であった 彼らが呻き苦しむのを聞くのは

私はその声を聞いたのだ 私もひどく殴られたのだけれども
あまりにも激しく 私はそこに倒れるしかなかった
われらは皆地面に倒れ 立ち上がることができなかった者は頭の上を殴打された

私は気を失っていたに違いない 次に私が知ったのはひとりの兵士が言った言葉だ:
»全員死んでいます«
そこで軍曹はわれらを片付けるように命じた
そこに私は半ば意識を失って横たわっていた
あたりはとても静かになっていた - 恐怖と苦痛-

それから私は聞いた 軍曹が叫ぶのを»号令!«
彼らは始めた ゆっくりと不規則に:一、二、三、四
»気をつけ« 軍曹は再び叫んだ
»速くやれ!最初からやり直し!

一分以内に俺は知りたいんだ
何人ガス室送りにするのかをな!
号令!»

彼らは再び始めた 初めはゆっくりと:一、二、三、四
次第に速く 更に速く 一層速くなって
ついには野生の馬の駆け足のように聞こえてきた
そして突然 そのさなかに
彼らは歌い始めたのだ 「聞け イスラエルよ」と


聞けイスラエルよ 主はわれらの神 主は唯一なり:
主を愛せよ 汝らのすべての心 すべての魂 すべての力もて
そしてわれが今日汝らに命じるこれらの言葉を心に留め
汝らの子に教え 語るのだ 家に座っている時も 
道を歩く時も 寝る時も起きる時も


1947年の作品。管弦楽伴奏による語り手と男声合唱の曲です。詞を見れば何のことが歌われているかは一目瞭然でしょう。あの悪名高い強制収容所のあったアウシュビッツで恐らく起こっていたことをなぞっているかのような生々しい情景描写。シェーンベルクの編み出したシュブレッヒテンメ(語り)がこれほど見事にはまっている作品もそうはないでしょう。ここで描き出されたドイツ軍の軍曹の狂気が、今に至るもまだ世界のあちこちで現れていることに暗澹としてしまいます。
最後に出てくる男声合唱が歌っているのは旧約聖書 申命記第6章の4〜7節(最後の7節目は長いのでここでは二行に分けています)。ヘブライ語で歌われていますので、ネット上にあるヘブライ語-日本語の聖書対訳サイトで原文を確認しました。ヘブライ語はご存じのように独自の文字を使っておりますがそれではほとんどの方は読めないと思いますのでローマ字翻字にしております。翻字は楽譜に記されているものに従いましたが、ヘブライ語の正しい表記にはなっていない感じです、もっとも上演されるときはこの翻字を読みながら歌われますので、この表記がこの曲を聴いていて一番歌声にぴったり来ている感じです。

( 2014.08.09 藤井宏行 )


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