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Net,tolko tot,kto znal   Op.6-6  
  6 Romansov
ただ憧れを知る者だけが  
     6つのロマンス

詩: メイ (Lev Aleksandrovich Mei,1822-1862) ロシア
      Nur wer die Sehnsucht kennt 原詩: Johann Wolfgang von Goethe ゲーテ,Wilhelm Meisters Lehrjahre (ヴィルヘルム・マイスターの修業時代)

曲: チャイコフスキー (Pyotr Ilyich Tchaikovsky,1840-1893) ロシア   歌詞言語: ロシア語

















Net,tol’ko tot,kto znal svidan’ja,zhazhdu,
pojmet,kak ja stradal i kak ja strazhdu.
Gljazhu ja vdal’... net sil,tuskneet oko...
Akh,kto menja ljubil i znal - daleko!

Akh,tol’ko tot,kto znal svidan’ja zhazhdu,
pojmet,kak ja stradal i kak ja strazhdu.
Vsja grud’ gorit...
Kto znal svidan’ja zhazhdu,
pojmet,kak ja stradal i kak ja strazhdu.

ただ憧れを知る者だけが
わたしの苦しみをわかってくれるのです
あらゆる喜び、幸せから隔てられ
私ははるか遠くの青い空を見つめています

ああ! 私を愛し、わかってくれる人は
どこかわからない遠い所にいる
そう思うと私は気が遠くなり
胸をかきむしられるのです

ただ憧れを知る者だけが
わたしの苦しみをわかってくれるのです
          (甲斐訳)


いいえ、憧れを、渇きを知っている人だけが
わかってくれるのです、どんなに私が悩み、苦しんでいるのかを
私は遠くを見つめます...力なく、うつろな瞳で...
ああ、私をわかって、そして愛してくれた人は遥か遠く!

ああ、憧れを、渇きを知っている人だけが
わかってくれるのです、どんなに私が悩み、苦しんでいるのかを
私の心は燃えています...
憧れを、渇きを知っている人だけが
わかってくれるのです、どんなに私が悩み、苦しんでいるのかを
         (藤井訳:L・メイによるロシア語歌詞より)


ゲーテの長編小説「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」の登場人物ミニヨンが作中で歌う「ただ憧れを知る者だけが」への作曲。
薄幸の少女ミニヨンは、当時の作曲家に非常に人気が高く、最も有名な詩「君よ知るや南の国」には有名無名合わせて600人もの作曲があるそうです。いくらマニアでもこれ全部聴くのは無理でしょうね。

トマのオペラ「ミニヨン」はこの作品のクライマックスの部分をメロドラマ化(そこまでやるかと言うぐらいの陳腐な台本に恐れ入る)したものですし、そのアリア「君よ知るや南の国」はかつて非常に人気がありました。(今はほとんどCDもないようですが、声楽やってる方は歌うのでしょうか?)

何と言っても有名なのはシューベルトやヴォルフの書いたリートでしょう。それらをこれから取り上げたいと思いますが、第一弾にはチャイコフスキーの「ただ憧れを知る者だけが」をご紹介します。
ロシア歌曲は不勉強な私ですが、この曲だけは良く知っています。この曲はとてもメロディが美しいので、アメリカでムード音楽として愛好されています。マントヴァーニなども編曲して録音しているようです。そしてこの曲の英語版”None but the lonly heart”をわたしの大好きなシナトラ御大が全盛期に2度も録音しているのです。

1:シナトラ(vo)アクセル・ストーダル指揮管弦楽団(CBS)
2:シナトラ(vo)ゴードン・ジェンキンス指揮管弦楽団(キャピトル)
3:ボロディナ(ms)ゲルギエワ(p)(フィリップス)

シナトラが美声を誇った50年代の1、深みと渋みを増した60年代の2と、いずれも素晴らしいです。ゲーテともミニヨンとも離れ、普遍的な愛の歌として歌っていますが、シナトラ得意の「寂しさ」の表現力は圧倒的です。
この頃のアメリカのポピュラー音楽の器楽演奏陣は大変豪華でした。戦乱を逃れてヨーロッパから来たユダヤ系音楽を中心とした演奏家たちが、アメリカのオケを飛躍的に向上させたことは良く知られていますが、彼らはポピュラー音楽の録音などでも活躍していたのです。
シナトラのバックで演奏しているのは、たぶんハリウッドボウル交響楽団のメンバーでしょう。充実した弦楽合奏で甘美に演奏され、クラシックファンの鑑賞に耐える物になっています。
どちらかというとステレオの後者が聴きやすいですが、前者はちょっと笑えるアレンジが聴き物です。なんと、「悲愴」のフィナーレの主題をイントロにしてしまっているのです。そしてシナトラのマジメな歌。なかなか楽しい物です。

原語の歌唱では、最近名を上げているボロディナを聴いてみましたが、なんとも楷書体のの元気な歌で、満足できませんでした。シナトラで聴きすぎたためかもしれません。
CDのタイトルに英訳が使われているので期待したのですが。他にはどんな録音があるでしょうか?
         (1998.08.02 甲斐貴也)

あそびの音楽館でチャイコフスキーの歌曲MP3を取り上げられる際に、例によりまして訳詞をお送りするのですが、この有名な歌の歌詞は、ロシアの詩人・レフ・メイの手によりかなり違ったものになっていたことを思い出しました。確かにゲーテのミニヨンを題材にしてはいますけれども、歌詞をよくみると全くの別物であるといってもよさそうです。そこでご参考までにロシア語詩より訳したものも作ってお送りすることにしました。
正しくは「憧れを」のところに対応する「svidan’ja」は「ダ・スヴィダーニャ」と(See you agein)いうロシアのお別れの挨拶でおなじみの通り、「出会い」という意味なので、「ただ出会いを切望する人だけが」というのがより適切な訳なのかも知れません。ちょっとストレートに過ぎるような気がしましたので誤訳だとは思いますが上のような訳詞にしてみました。
チャイコフスキーもこちらの方の詞に付けたので、中間部の熱い盛り上がりのところなど、明らかにメイの解釈を受けていますね。
          (2006.09.16 藤井宏行)

( 2006.09.16 甲斐貴也/藤井宏行 )


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