Le chat I Six mélodies sur des poèms Symbolistes |
ネコ T 6つのサンボリストの詩によるメロディ |
Dans ma cervelle se promène, Ainsi qu'en son appartement, Un beau chat,fort,doux et charmant. Quand il miaule,on l'entend à peine, Tant son timbre est tendre et discret ; Mais que sa voix s'apaise ou gronde, Elle est toujours riche et profonde. C'est là son charme et son secret. Cette voix,qui perle et qui filtre Dans mon fonds le plus ténébreux, Me remplit comme un vers nombreux Et me réjouit comme un philtre. Elle endort les plus cruels maux Et contient toutes les extases ; Pour dire les plus longues phrases, Elle n'a pas besoin de mots. Non,il n'est pas d'archet qui morde Sur mon coeur,parfait instrument, Et fasse plus royalement Chanter sa plus vibrante corde, Que ta voix,chat mystérieux, Chat séraphique,chat étrange, En qui tout est,comme en un ange, Aussi subtil qu'harmonieux ! |
私の脳みその中を まるで自分のアパートかのように闊歩する 綺麗な猫がいる。強く、可愛く、チャーミングな。 ニャアと鳴いても声はほとんど聞こえない それほどか細く、ひそやかなのだが なごんでいるときも、唸るときも その声は実は豊かで深い それがこいつの魅力であり、秘密でもある この声が私の真っ暗な心の奥底に 弾み、そしてしみ込んでいき リズムの良い詩のように私を満たし 媚薬のように私を楽しませる その声は苦悩を鎮め そしてあらゆる恍惚を含んでいる 長い内容を伝えるのにも 言葉は必要でないのだ この完璧な楽器である私の心に ぴったりと共鳴し この高鳴る弦を激しくかき鳴らすのは 他にはないぞ それがお前の声だ。神秘的な猫よ 気高い猫よ。不思議な猫よ まるで天使のようにお前の中では すべてのことが調和し精妙だ |
ボードレールの衝撃的な詩集「悪の華」の中に収められている詩です。
新潮文庫に収められている堀口大学の訳があまりに古くなってしまいましたので、それも参考にしながら即席で訳してみました。
猫のことを神秘的な女性に喩えるようになったのはボードレールが始めたことだとどこかで目にしたことがありますが、確かに猫の描写として読んでも、あるいは恋人の描写として読んでもしっくりくる詩ですね。
猫好きの人はけっこうこの詩がお気に入りだったりするみたいです。
さて、この詩に曲を付けたアンリ・ソーゲは、20世紀フランスの作曲家でありながら交響曲を4曲も作曲したり、かなり古典的なスタイルにこだわった人です。彼の音楽を聴いての印象は「無骨なエリック・サティ」とでも言いましょうか?
おしゃれなエスプリや洗練とはちょっと違ったところにフランス音楽の魅力を切り開いた人として私は好んで聴いています。実際「アルカイユ楽派」というのを形成してサティの精神を継承しようとしたのだとか。
この曲も歌うというよりは訥々と語るような感じがサティの歌曲っぽいです。
CDが容易に入手できるのは、イギリスのソプラノ、フェリシティ・ロットがHarmonia Mundiに入れた「ボードレールの詩による歌曲集」。ただしこれには第1曲しか確か収録されていなかったと思います。全2曲が聴けて、しかもピアノ伴奏が作曲者自身の注目盤が、INAレーベルから出ているテノールのポール・デレンヌの1957年の録音です。このデレンヌという人がまた訥々とした歌い方をする人なので、サティやソーゲの歌曲にはピタリとはまって実に素晴らしいです。
( 2004.06.26 藤井宏行 )