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Les adieux de Marie Stuart   WWV 61  
 
マリー・スチュアートのお別れ  
    

詩: ベランジェ (Pierre-Jean de Béranger,1780-1857) フランス
      Adieux de Marie Stuart

曲: ヴァーグナー (Richard Wagner,1813-1883) ドイツ   歌詞言語: フランス語


Adieu,charmant pays de France
Que je dois tant chérir!
Berceau de mon heureuse enfance,
Adieu! Te quitter c'est mourir!

Toi que j'adoptai pour patrie
Et d'où je crois me voir bannir,
Entends les adieux de Marie,
France,et garde son souvenir.

Le vent souffle,on quitte la plage,
Et peu touché de mes sanglots,
Dieu,pour me rendre à ton rivage,
Dieu n'a point soulevé les flots!

Lorsqu'aux yeux du peuple que j'aime,
Je ceignis les lis éclatants,
Il applaudit au rang suprême
Moins qu'aux charmes de mon printemps.

En vain la grandeur souveraine
M'attend chez le sombre Écossais;
Je n'ai désiré d'être reine
Que pour régner sur des Français.

France,du milieu des alarmes
La noble fille des Stuarts,
Comme en ce jour,qui voit ses larmes,
Vers toi tournera ses regards.

Mais,Dieu! le vaisseau trop rapide
Déjà vogue sous d'autres cieux;
Et la nuit,dans un voile humide,
Dérobe tes bords à mes yeux!

Adieu,charmant pays de France
Que je dois tant chérir!
Berceau de mon heureuse enfance,
Adieu! Te quitter c'est mourir!

さようなら 愛しい国フランスよ
私にたくさんの愛を与えてくれた国よ!
私の幸せな子供時代の揺りかごよ
さようなら!あなたから去るのは 死ぬのと同じことです!

あなたは私が祖国として選んだところ
そしてそう思っています たとえ禁じられても
マリーのお別れを聞いてくださいね
フランスよ 忘れずにいてちょうだい

風が吹いてくる 岸辺が遠くなる
私の涙など少しも気にせずに
神さま あの岸辺に戻って行くために
神さま 波を静めては下さらぬのですね!

ここで 私は愛する人々の前に、
私は明るいユリの花を捧げました
それは最高の地位を讃えています
私の若さの魅力よりも

空しき偉大な王座が
暗いスコットランドで私を待っています
私は女王になりたくはなかった
このフランス以外のどこを支配するのでも

フランスよ この不安のさなかに
このスチュアートの高貴な娘は
涙を見せたあの日のように
あなたにその眼差しを向けましょう

でも神さま!船が速すぎるのです
もう異国の空の下に来てしまった
夜には 濡れた帆では、
私の目にあなたの縁を盗む!

さようなら 愛しい国フランスよ
私にたくさんの愛を与えてくれた国よ!
私の幸せな子供時代の揺りかごよ
さようなら!あなたから去るのは 死ぬのと同じことです!


スコットランドの悲劇の女王として知られたメアリー・スチュアートは幼い頃はフランスで育ち、かの国に愛着があったのだといいます。フランスを去り、スコットランドへと向かう船の中での思いを歌った詩、メアリー自身に書いたものがあったのかどうかは不明ですが、ドイツ語に訳されたものには晩年のシューマンが曲をつけたものもあり(Op.135-1)比較的良く知られたエピソードです。19世紀の反骨のシャンソン歌手にして詩人のベランジェがそのエピソードをもとに書いたと言われるこの詞、なんと若き日のリヒャルト・ワーグナーが曲をつけたものがあります。1840年の作曲といいますからまだベランジェも存命中、当時彼の名声も高まりつつあった時期だそうですので、新進作曲家のワーグナーとしてはこの大歌手の知名度にあやかろうというところでしょうか(あるいは出版社が書かせたのかも知れませんが)。フランス語の流麗な響きに美しいワーグナーのメロディが結びついてなかなか印象深い作品となりました。

( 2014.05.04 藤井宏行 )


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