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Mein Fluß   Op.62-9  
  Das Holdes Bescheiden
わたしの流れ  
     歌曲集「善き慎み」

詩: メーリケ (Eduard Friedrich Mörike,1804-1875) ドイツ
    Gedichte  Mein Fluß

曲: シェック (Othmar Schoeck,1886-1957) スイス   歌詞言語: ドイツ語


O Fluß,mein Fluß im Morgenstrahl!
Empfange nun,empfange
Den sehnsuchtsvollen Leib einmal,
Und küsse Brust und Wange!
- Er fühlt mir schon herauf die Brust,
Er kühlt mit Liebesschauerlust
Und jauchzendem Gesange.

Es schlüpft der goldne Sonnenschein
In Tropfen an mir nieder,
Die Woge wieget aus und ein
Die hingegebnen Glieder;
Die Arme hab ich ausgespannt,
Sie kommt auf mich herzu gerannt,
Sie faßt und läßt mich wieder.

Du murmelst so,mein Fluß,warum?
Du trägst seit alten Tagen
Ein seltsam Märchen mit dir um,
Und mühst dich,es zu sagen;
Du eilst so sehr und läufst so sehr,
Als müßtest du im Land umher,
Man weiß nicht wen,drum fragen.

Der Himmel,blau und kinderrein,
Worin die Wellen singen,
Der Himmel ist die Seele dein:
O laß mich ihn durchdringen!
Ich tauche mich mit Geist und Sinn
Durch die vertiefte Bläue hin,
Und kann sie nicht erschwingen!

Was ist so tief,so tief wie sie?
Die Liebe nur alleine.
Sie wird nicht satt und sättigt nie
Mit ihrem Wechselscheine.
- Schwill an,mein Fluß,und hebe dich!
Mit Grausen übergieße mich!
Mein Leben um das deine!

Du weisest schmeichelnd mich zurück
Zu deiner Blumenschwelle.
So trage denn allein dein Glück,
Und wieg auf deiner Welle
Der Sonne Pracht,des Mondes Ruh:
Nach tausend Irren kehrest du
Zur ew’gen Mutterquelle!

おお流れよ、朝日に輝くわたしの流れよ!
今こそ受けとれ、受けとってくれ
憧れに満ちたこの体を
そして胸と頬に口づけしてくれ!
・・・わたしはもう胸の辺りまでおまえを感じ
愛の喜ばしい慄きと
歓喜の歌声がわたしを冷やしてくれる

黄金色の陽光のしずくが
わたしに降りそそぐ
波に委ねたわたしの体は
あちらこちらに揺り動かされ
わたしが両腕を伸ばすと
波はわたしに駆け上がり
捕らえたかと思うとまた放す

何かを呟くわたしの流れよ
どうしておまえははるか昔から
不思議な物語を語ろうと
たえず努めてきたのだ
おまえは時に急ぎ、そして駆ける
まるでこの地のあらゆるところで
その謎を問いかけようとするかのように

碧く無邪気に澄み切った天空
その中で波が歌っている
あの空はおまえの魂だ
ああ、わたしをそこに浸らせてくれ!
わたしはこの身も心も
その碧い深淵に投ずる
だが碧に染まることは出来ない!

こんなにも深いもの、この碧ほど深いもの
それはただ愛だけだ
愛はその移ろいゆくきらめきによって
飽くことがなく、飽かせることもない
・・・溢れよ、わたしの流れよ、高まりゆけ!
おまえの慄きをわたしにふりそそげ!
わたしの命と引きかえにおまえの命をくれ!

だがおまえはわたしにまとわりながら
あの花咲く岸辺に戻れと優しく言う
ならばおまえはひとり幸せに
太陽の豪奢と月の平穏を
その波で揺すっているがいい
数え切れぬ迷いの後でおまえは
永遠の母なる泉へと帰ってゆくのか!

インターネット上でメーリケを検索された方は、中嶋忠宏先生による論文「シェックのメーリケ歌曲集を読む」をご覧になったことと思います。現在ネット上で閲覧できるのは第3部のみですが、その非常な充実ぶりにぜひ第1部と第2部も拝読したいとかねがね思っていましたが、思い切って中嶋先生に連絡を取ったところご好意でその前作であるシェック=マイヤー歌曲論と共に拝読させて頂く事が出来ました。その第2部「水の物質的想像力と音楽言語」で取り上げられていたのがこの作品です。

中嶋先生の非常な博識と鋭い洞察による論の素晴らしさと共に、そこで使われている先生ご自身の手になる日本語訳の美しさにわたしは非常な感銘を受けたのですが、この詩などわたしは中嶋先生の訳詩を目にして初めてその魅力に気づいた次第です。はっとして当たってみるとこれはメーリケの名作として古くから知られるものであることがわかりました。ヴォルフの作曲していないメーリケの詩への自らの関心の低さを恥じる思いでした。

自分なりの訳を作りながらますますこの詩の魅力に取り付かれていきましたが、中嶋先生の訳でわたしが素晴らしいと思うのは、第4節最終行で「染まる」という語を使っていることです。他の訳では青を「得る」「わがものにする」「手にする」になっていますが、こんなにも深い青色の深淵に身を浸しても決して青色に染まりはしないというのがまさにこの詩の意だと思います。青色の深みも空も、水や空気そのものはまったくの無色透明であって、その色は決して手にすることは出来ない・・・。わたしもそれに倣い「染まる」を採用させていただきました。

シェックの作曲は水の流れを表現したピアノ伴奏に乗る軽快なもので、ピアノ伴奏の揺れる波ときらめくしぶきと情熱的な歌の対峙が印象的です。演奏は最近、スイス・イエックリンのシェック歌曲全集中でボストリッジによる歌唱も発売されましたが、クラーヴェスの世界初録音盤で白井光子さんによる歌が聴けることは幸せです。

( 2003.07.21 甲斐貴也 )


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