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生活の柄    
 
 
    

詩: 山之口獏 (Yamanokuchi Baku,1903-1963) 日本
      

曲: 高田渡 (Takada Wararu,1949-2005) 日本   歌詞言語: 日本語


歩き疲れては、
夜空と陸との隙間にもぐり込んで寝たのである
草に埋もれて寝たのである
ところ構はず寝たのである
寝たのであるが
ねむれたのでもあつたのか!
このごろはねむれない
陸を敷いてはねむれない
夜空の下ではねむれない
揺り起されてはねむれない
この生活の柄が夏向きなのか!
寝たかとおもふと冷気にからかはれて
秋は、浮浪人のままではねれむれない



沖縄出身の詩人・山之口貘(ばく)が亡くなって昨年で50年が経ち、12月31日をもって著作権が切れました。残念ながらここで取り上げる「クラシック系」歌曲では中田喜直が書いた 結婚くらいしかこの貧乏をユーモアとペーソスで包みこんだ素敵な詩に曲をつけた作品しか私は知りませんでしたので、そちらはそちらでご紹介すると共に(詩を追記しました)、この詩人をとても愛し、いくつもの詩にメロディーをつけて歌っていたフォークシンガーの高田渡(このひとも9年前に亡くなってしまいました)のこの詩人につけた曲の中で恐らく最も良く知られたこの作品をこの新年には取り上げることにします。

19歳で初めて進学のために上京した山之口、しかし1ヶ月で退学してその後貧乏のために家を転々とします。そんな中関東大震災に遭遇し、一旦は沖縄に戻るものの再び21歳のとき(大正13年)に東京へと向かったのでした。それから結婚する34歳までの16年間、仕事を転々とし、「一度も畳の上で寝たことがない」ような暮らしを続けました。この「生活の柄」はそんな暮らしを始めたばかりの21歳のときの作品。まだ貧しかった昭和30年代の日本の若者にも共感できる内容だったのでしょう。高田渡もしみじみとしたアメリカン・フォークの味わいで歌っていました。
(ここに取り上げましたのは山之口の書いた原詩(講談社文芸文庫「山之口貘詩文集」より)ですが、高田はこの詩をちょっとだけアレンジして「です・ます調」で歌っています。それがまた飄々とした感じで実に良いのです)

( 2014.01.01 藤井宏行 )


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