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L'espionne   FP 140  
  Calligrammes
女スパイ  
     カリグラム 

詩: アポリネール (Guillaume Apollinaire,1880-1918) フランス
    Calligrammes  L'espionne

曲: プーランク (Francis Poulenc,1899-1963) フランス   歌詞言語: フランス語


Pâle espionne de l'Amour
Ma mémoire à peine fidèle
N'eut pour observer cette belle
Forteresse qu'une heure un jour

Tu te déguises
À ta guise
Mémoire espionne du coeur
Tu ne retrouves plus l'exquise
Ruse et le coeur seul est vainqueur

Mais la vois-tu cette mémoire
Les yeux bandés prête à mourir
Elle affirme qu'on peut l'en croire
Mon coeur vaincra sans coup férir

蒼ざめている恋の女スパイ
私の記憶はほとんど当てにならない
偵察せねばならなかったのだ この美しい
要塞を たった一時間 一日だけ

お前は変装する
思うがままに
記憶よ 心の女スパイよ
お前にはもう見つけられぬ 巧妙な
計略など そして心だけが勝つのだ

だがお前には見える この記憶が
目隠しさせられて 死に臨んでいる記憶が
そいつは断言するのだ 自分を信じて良いと
私の心は勝利するだろう 戦うことなく


アポリネールの書いた詩集「カリグラム」(1918)は、詩の文字をその詩のテーマに合わせて視覚的に(絵のように)構築する方法で書かれていて、ただ眺めているだけでも面白いです。アポリネール・カリグラムでネットの画像検索をして頂きますとどんなものかはご覧頂けるかと思います。LPレコードの頃はリブレットを書くスペースにも余裕があったからでしょうか、私の手元にあるジェラール・スゼーの歌った歌曲集のレコードではこの歌曲集全部のカリグラムがLPサイズの紙一面に日本語の同じように構成されたカリグラムとして掲載されていました。個人的にはそんな感じの対訳にしてみたい気もしたのですが、作るのがたいへん面倒なのと、どうせ歌われる時は文章の流れ通りですからカリグラムにすると目で追うのがとても大変になりますので、普通通りの表示にて対訳とすることとしました。
プーランクの曲は、作曲への着手は1948年、完成はその4年後ということで第2次世界大戦が終わって間もない頃です。アポリネールにとってもこれらの詩を書いたのは第1次世界大戦たけなわの頃ということもあって、ここに取り上げられた詩の数々は、戦争の影を引きずっているものが目立ちます。決して暗く沈んだ雰囲気ではないのですが、どこか乾いた冷たいシニカルさがこの歌曲集を特徴付けています。
最初の曲のこの詩、これは特にカリグラムにはなっていないようで普通の横書きの詩の形です。前線に出征していた詩人ならではの比喩に満ちています。ここでいう要塞とはもちろん恋している女性のこと、前述のスゼーのLPにあった三浦淳史氏の解説によれば、これは当時詩人が婚約していたマドレーヌ・パージェのことなのだそうです。女スパイとは、その女性のことを探ろうとしている自分の記憶のことですね。

( 2013.11.03 藤井宏行 )


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