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Les Attentives I   Op.135-5  
  Symphony no. 14
心してT  
     交響曲第14番「死者の歌」

詩: アポリネール (Guillaume Apollinaire,1880-1918) フランス
    Les attentives 1 Celui qui doit mourir ce soir dans les tranchées

曲: ショスタコーヴィチ (Dimitry Shostakovich,1906-1975) ロシア   歌詞言語: フランス語


Celui qui doit mourir ce soir dans les tranchées
C'est un petit soldat dont l'oeil indolemment
Observe tout le jour aux créneaux de ciment
Les Gloires qui de nuit y furent accrochées
Celui qui doit mourir ce soir dans les tranchées
C'est un petit soldat mon frère et mon amant

Et puisqu'il doit mourir je veux me faire belle
Je veux de mes seins nus allumer les flambeaux
Je veux de mes grands yeux fondre l'étang qui gèle
Et mes hanches je veux qu'elles soient des tombeaux
Car puisqu'il doit mourir je veux me faire belle
Dans l'inceste et la mort ces deux gestes si beaux

Les vaches du couchant meuglent toutes leurs roses
L'aile de l'oiseau bleu m'évente doucement
C'est l'heure de l Amour aux ardentes névroses
C'est l'heure de la Mort et du demier serment
Celui qui doit périr comme meurent les roses
C'est un petit soldat mon frère et mon amant

塹壕で夜のくる前に死んでいく
それはちっぽけな戦士、その生気の失せた眼は
一日中、銃眼をむなしく覗き
夜には処刑されてしまう「栄光」をみつめていた
塹壕で夜のくる前に死んでいく
それはちっぽけな戦士、私の弟、私の恋人

その死が避けられないのなら、私は美しくなりたい
私の裸の胸で灯りに火を付け
私の大きな瞳で凍った池を溶かしたい
そして私の腰には墓帯を巻きつけよう
その死が避けられないのなら、私は美しくなりたい
近親相姦と死の中で、美しさは際立つのだから

夕暮れに染まった雌牛達の群れは鳴き
青い鳥の羽に私は引き付けられる
今は愛の時、燃えるような熱病の時
今は死の時、冷酷な宣告の時
バラが枯れるように死んでいく
それはちっぽけな戦士、私の弟、私の恋人


ユージン・オーマンディ/フィラデルフィア管弦楽団のいにしえの名演奏が先ごろたくさん復刻になりました(BMG)。その中で私が注目していたのはなかなか手に入らない近現代の作品。このアンサンブルの強靭な合奏力で聴く現代の錯綜した音楽はとても魅力的です。
その中でも結構意外な取り合わせはショスタコービチの後期交響曲作品、第13番の「バービ・ヤール」、第14番「死者の歌」、そして最後の交響曲第15番です。
これらとことん暗い作品を実に美しく磨き抜いて聴かせてくれると逆説的に暗さが引き立つ、のが面白いところで、どれもかけがえのない遺産ではないかと思います。
第14番「死者の歌」のソリストはフィリス・カーティン(Sop)とサイモン・エステス(Bass)、卓越した歌唱力を抒情的に生かしてくれています。
 
toraさんが紹介してくれているよう、ショスタコービチはムソルグスキーの「死の歌と踊り」のとことん暗い管弦楽編曲を行っていますが、その編曲の経験にヒントを得て新たに作曲したのがこの「死者の歌」、ガルシア・ロルカ、ギョーム・アポリネール、ライナー・マリア・リルケなどの詩のロシア語訳を主に11編に曲を付けています。
弦楽と打楽器だけのアンサンブル+独唱2人の小編成ですが、大オーケストラによる作品にも遜色ない激烈な作品となりました。

中でもアポリネールの象徴的な詩は6曲も取り上げており全曲の半分以上を占めています。特に印象的なのはご紹介した心してTと心してUの第5・6楽章、骸骨の踊りのような木琴と生け贄の儀式を思わせるような太鼓(トムトム)とが掛け合いながら、ソプラノが歯切れ良く死に行く兵士の運命を歌う第5楽章と、一転して重々しくバスの問いかけで始まる第6楽章は、やがてソプラノの気の触れたような叫び(笑い)で奇妙な雰囲気を醸し出しながら、いつのまにかバスと精妙な弦楽が美しい第7楽章「ラ・サンテ監獄にて」に移っていきます。

冒頭でご紹介したオーマンディ/フィラディルフィア管弦楽団のものが、精妙な美しさの中から死の厳粛さを滲み出させているとすれば、この曲の初演者ルドルフ・バルシャイ/モスクワ室内管のコンビの演奏は、ただただひたすら激しく、荒々しいです。
ところがこの強烈な演奏が今度は逆説的に死の冷酷さを感じさせる不思議な効果を醸し出すところがこの曲の面白いところ。
バルシャイ/モスクワ室内管には2種類の録音があり、歌手がモスクワ初演時のヴィシネスフカヤ(Sop)とレシェチン(Bass)とのコンビのライブ(Russian Disc)と、レニングラード初演時のコンビ、ミロシニコーワ(Sop)とエフゲーニイ・ウラジミロフ(Bass) で入れた正規のスタジオ録音(メロディア)とありますが、ライブに付き物のミスを差し引いても、モスクワ初演の方が実にコワい、鬼気迫る凄絶な演奏になっています。
太鼓の皮が破れそうなほど激しく打ち鳴らされるタムタム、とんでもないスピードで駆け抜ける木琴、そして気が変になったのではないかと思うような熱唱のソプラノ、とにかく鮮烈です。
ヴィシネスフカヤ(Sop)とレシェチン(Bass)のソリスト2人はロストロポーヴィチやこの曲を献呈されたブリテンの指揮でも録音しており、こちらも鮮烈でしたが、やはり初演のライブの強烈さには及ばないかな、という気がします。

詩はアポリネールの原詩であるフランス語から訳しました。またフランス語の原詩を掲載しています。
原詩の言葉(G-ロルカはスペイン語・リルケはドイツ語など)で演奏されることもよくあるようで、このタイプで私はハイティンク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団、ヴァラディのソプラノ&フィッシャー・ディースカウのバリトンの演奏(London)を聴いたことがあります。
本来ロシア語訳詩に作曲したのでイントネーションなどに違和感がある、という批判もあるようですが、少なくとも「心してT」の歯切れの良いリズムと伴奏は早口のフランス語が絶妙に溶け合ってなかなかの面白い聴きものではありました。

( 2004.04.18 藤井宏行 )


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