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Trockne Blumen   Op.25 D 795  
  Die schöne Müllerin
萎れた花  
     美しき水車小屋の娘

詩: ミュラー,ヴィルヘルム (Johann Ludwig Wilhelm Müller,1794-1827) ドイツ
    Die schöne Müllerin 22 Trockne Blumen

曲: シューベルト (Franz Peter Schubert,1797-1828) オーストリア   歌詞言語: ドイツ語


Ihr Blümlein alle,
Die sie mir gab,
Euch soll man legen
Mit mir ins Grab.

Wie seht ihr alle
Mich an so weh,
Als ob ihr wüßtet,
Wie mir gescheh?

Ihr Blümlein alle,
Wie welk,wie blaß?
Ihr Blümlein alle,
Wovon so naß?

Ach,Tränen machen
Nicht maiengrün,
Machen tote Liebe
Nicht wieder blühn.

Und Lenz wird kommen,
Und Winter wird gehn,
Und Blümlein werden
Im Grase stehn.

Und Blümlein liegen
In meinem Grab,
Die Blümlein alle,
Die sie mir gab.

Und wenn sie wandelt
Am Hügel vorbei
Und denkt im Herzen:
Der meint' es treu!

Dann,Blümlein alle,
Heraus,heraus!
Der Mai ist kommen,
Der Winter ist aus.

お前たち小さな花みんなは
あの子がぼくにくれたもの
お前たちも入れてもらおう
ぼくと一緒に 墓の中へ

何だってお前たちはみんな
ぼくをそんなに悲しそうに見るんだ
まるで知っているみたいに
ぼくに何が起きたのかを?

お前たち小さな花みんなは
何と萎れ 何と色あせているんだ?
お前たち小さな花みんなは
どうしてそんなに濡れているんだ?

ああ 涙が生み出すことはない
五月の緑を
死んでしまった愛は
再び咲くことはない

春は来るだろう
冬は過ぎるだろう
そして小さな花たちは
野原に咲くのだろう

だけどこの花たちは横たわっている
ぼくの墓の中に
小さな花たちみんな
あの子がぼくにくれた花は

もしもあの子がそぞろ歩いて
丘を通り過ぎ
心から思ってくれたら
あの人は誠実だったと!

そのときこそ花たちよみんな
咲き出でよ 咲き出でよ!
五月がやってきた
冬は去ったのだ


この歌曲集の中でも屈指の名曲ではないかと私は思います。シューベルト自身もこのメロディを愛したのか「しぼめる花変奏曲」として独立の器楽作品にもしていますね。暗く沈んだ冒頭のメロディが、やがて彼の幻想の中で明るく輝かしく変わっていくところが非常に印象的です。それは儚い幻想ではあるのですが。
この詩は、歌曲集では省略された前の詩「忘れて草の花」と花シリーズでペアになっていますね。あのドロドロとした呪詛に満ちた花の描写のあとで、ここで凋んでしまっている花たちの何と楚々として可愛らしいことでしょうか。季節はちょうど秋のイメージですね。春から夏へかけての希望に満ちた恋の季節に彼女から贈って貰った花たちが、恋の終わりを告げる秋には共に枯れてしまう。たとえまた春がめぐってきても、失くした恋も、そしてこの花たちも甦ることはないのです。もう彼は死ぬ覚悟を決めてしまったから。ただ彼女がほんの少しでも自分のことを偲んでくれたらきっと花たちは甦るに違いない...なんとも壮絶な思い込みですが、死に囚われた心にはそんなことが浮かんでは消えるのでしょうか。
歌曲集、このあとの2曲が静かに彼を慰める音楽なので、この曲が最後の壮絶なクライマックスとも言えるのかも知れません。

( 2013.09.21 藤井宏行 )


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