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London,to thee I do present   Op.44-12  
  Spring Symphony
ロンドンよ お前に私はプレゼントしよう  
     春の交響曲

詩: ボーモント (Francis Beaumont,1584-1616) イギリス  &  フレッチャー (John Fletcher,1579-1625) イギリス
    The Knight of the Burning Pestle  

曲: ブリテン (Edward Benjamin Britten,1913-1976) イギリス   歌詞言語: 英語


London,to thee I do present the
merry month of May;
Let each true subject be content to
hear me what I say:
With gilded staff and crossed scarf,
the Maylord here I stand.
Rejoice,O English hearts,rejoice!
rejoice,O lovers dear!
Rejoice,O City,town and country!
rejoice,eke every shire!
For now the fragrant flowers do
spring and sprout in seemly sort,
The little birds do sit and sing,the
lambs do make fine sport;
And now the birchen-tree doth bud,
that makes the scboolboy cry;
The morris rings,while hobby-horse
doth foot it feateously;
The lords and ladies now abroad,for
their disport and play,
Do kiss sometimes upon the grass,
and sometimes in the hay;
Now butter with a leaf of sage is good
to purge the blood;
Fly Venus and phlebotomy,for they
are neither good;
Now little fish on tender stone begin
to cast their bellies,

And sluggish snails,that erst were
mewed,do creep out of their shellies;
The rumbling rivers now do warm,
for little boys to paddle;
The sturdy steed now goes to grass,
and up they hang his saddle;
The heavy hart,the bellowing buck,
the rascal,and the pricket,
Are now among the yeoman’s peas,
and leave the fearful thicket;
And be like them,O you,I say,of
this same noble town,
And lift aloft your velvet heads,and
slipping off your gown,
With bells on legs,with napkins
clean unto your shoulders tied,
With scarfs and garters as you please,
and “Hey for our town!” cried,
March out,and show your willing
minds,by twenty and by twenty,
To Hogsdon or to Newington,where
ale and cakes are plenty;
And let it ne’er be said for shame,
that we the youths of London
Lay thrumming of our caps at home,
and left our custom undone.

Up,then,I say,both young and old,
both man and maid a-maying.
With drums,and guns that bounce
aloud,and merry tabor playing!

  Sumer is icumen in,
  Lhude sing cuccu
  Groweth sed and bloweth med
  And springth the wude nu.
  Sing cuccu.
  Awe bleteth after lomb,
  Lhouth after calve cu.

  Bulluc sterteth,bucke verteth,
  Murie sing cuccu.
  Cuccu,cuccu,
  Wel singes thu,cuccu,
  Ne swik thu naver nu.

Which to prolong,God save our
King,and send his country peace,
And root out treason from the land!
and so,my friends,I cease.

ロンドンよ お前に私はプレゼントしよう
陽気な五月を
忠実な国民の皆様方にはご満足頂こう
私の言うことを聞いて貰って
金色の杖とたすき掛けのスカーフを纏い
五月の王として 私はここに立っている
喜べ おお英国の心よ 喜べ!
喜べ おお親愛なる恋人たちよ!
喜べ おお都市よ 町よ 村よ!
喜べ すべての地よ!
これより香り立つ花たちが
芽吹き 咲き出でるのだ 上品な種類の
小鳥たちは止まって歌っている
子羊たちは遊び回る
そして今 カバの木も芽を出す
学童たちを泣かせる鞭となる木も
モリス踊りは鳴り響き 木馬の方は
器用に足を鳴らす
紳士たち 淑女たちも今 外に出かける
彼らの息抜きや楽しみのために
草の上で時々キスしたりする
時には干し草の上でもする
今はセージの葉を載せたバターが良い
血をきれいにするのには
ヴィーナスも瀉血もやめておけ どちらも
良くないのだから
今 小さな魚たち柔らかな石の上に
卵を産み始める

そしてのろまなカタツムリたち これまでずっと
閉じこもっていたが 彼らの殻から這い出てくる
さざめく小川も今暖かくなり
小さな男の子たちが水遊びする
頑丈な馬は今 草原に行き
人々はそいつの鞍を外す
重たい雄鹿、喧しい牡鹿
いたずらものや若いオスジカは
今は小作人のエンドウの間だ
恐ろしき茂みを逃げ出して
そして彼らシカたちのように おお諸君
同じ高貴な町にある方々よ
諸君のビロードの角を高く持ち上げよ
諸君のガウンを脱ぎ捨てて
鈴を両脚に付け ナプキンを
奇麗にその肩に結び付け
スカーフとガーターを付けて もしお好みであればだが
そして 「ばんざい わが町よ」と叫ぶのだ
そして繰り出すのだ 諸君の意気を示せ
心からの 20名と20名で隊列を組んで
ホグストンやニューイントンへ行こう そこでは
ビールやケーキがあふれている
そして「何たるざまだ」と決して言われぬようにしよう
われらロンドンの若人たちが
家に帽子の飾りを置いて来ても
われらの習慣をないがしろにしているなどと

さて それでは申し上げよう 老いも若きも、
男も女も共に 五月の祝いを
ドラムで、そしてドンパチ鳴る銃で
声上げて そして陽気な小太鼓の演奏で!

  夏がやってきた
  声あげて歌え カッコウよ
  種は育ち 葉は繁り
  森は今芽吹く
  歌え カッコウよ
  雌羊は鳴く 子羊のあとから
  牝牛は子牛のあとから鳴く

  雄牛は飛び跳ね 牡鹿は屁をこく
  楽しく歌え カッコウよ
  カッコウ カッコウ、
  上手に歌ってるな カッコウよ、
  ちっとも休まずに

更に加えては 神よ救い給え われらが
王を そしてこの国に平和をもたらし給え
そして反逆者をこの地から根絶やしにし給え!
さて 友人たちよ 私もこれでやめるとしよう


最後の第4部はソロと合唱が総出のお祭り騒ぎでこの曲の幕を閉じます。景気のよい口上を述べているのはこれがThe Knight of the Burning Pestle(ぴかぴかすりこぎ団の騎士)という喜劇のワンシーンだからです。早稲田大学出版部より1990年に邦訳が出ているので(大井邦雄訳)ご興味お有りの方は図書館などを探してみられてはいかがかと思います。タイトルの邦訳もその書に従いました。ここでブリテンが取り上げた部分は第4幕第5場、舞台の筋とは関係なく、主人公である食料品店の徒弟レイフが五月の王に扮して口上を述べさせられているところです。なぜ筋に関係ないかというと話が複雑なのですが、この劇を見ていた食料品店の主人とその妻が、町の商人たちを馬鹿にした劇に腹を立て、自分の徒弟レイフを無理矢理この劇にねじ込み、食料品店のシンボルである「すりこぎ」を紋章に仕立てて騎士の冒険に旅立つという話にしてしまった上、劇の進行途中でもあれこれ口を挟むものですから、とうとうこの幕では筋に関係なく五月の王様の格好をして口上をやらされる羽目になったというわけです。1613年の舞台だそうですので、当時の英国事情に詳しくない私には背景が良く分からず、かなり無理な訳になってしまっております。ご容赦ください。最後の部分には児童合唱で有名な「夏は来たりぬ」のカノン(13世紀 作者不詳)が挿入されています。これは戯曲にはなく、ブリテンが作曲の際に挿入したものです。
冒頭、のどかな春を思わせる打楽器と木管が主体の静かな音楽にテノールのソロがゆったりと入ってきて「われこそは五月の王」と口上を述べ、「喜べ」のところから他のソリスト、合唱が参加して次第に力感を増して行きます。そして「これより花たちが」のところから春の喜びが爆発、大管弦楽も交えてのお祭り騒ぎが始まります。女声・男声・少年の合唱が代わる代わる春のフレーズを繋いで行き、そして再びソリストたちが紳士淑女たちの春のお楽しみを歌うと合唱が健康についてひとくさり、そして一時音楽に穏やかさが戻ったあと、町へ繰り出せのところでは踊りまわるブラスと合唱の元気の良い掛け合いになります。「老いも若きも春の祝いを」のところでは冒頭のテナーの口上の調子が戻ってきますが、すぐに合唱のヴォカリーズが壮大に曲を盛り上げて行き、そこに少年合唱の「夏は来たりぬ」が絡んでクライマックスを作ります。
最後はテナーのソロが「おしまいにしよう」と口上の締めをつぶやいて、オーケストラの一打で幕となります。

( 2013.05.03 藤井宏行 )


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