Nun dämpft die Dämm'rung jeden Ton Gurrelieder Teil 1 |
今や黄昏が静めている あらゆる音を グレの歌 第1部 |
Nun dämpft die Dämm'rung jeden Ton Von Meer und Land, Die fliegenden Wolken lagerten sich Wohlig am Himmelsrand. Lautloser Friede schloss dem Forst Die luftigen Pforten zu, Und des Meeres klare Wogen Wiegten sich selber zur Ruh. Im Westen wirft die Sonne Von sich die Purpurtracht Und träumt im Flutenbette Des nächsten Tages Pracht. Nun regt sich nicht das kleinste Laub In des Waldes prangendem Haus, Nun tönt auch nicht der leiseste Klang, Ruh' aus,mein Sinn,ruh' aus! Und jede Macht ist versunken In der eignen Träume Schoss, Und es treibt mich zu mir selbst zurück, Stillfriedlich,sorgenlos. |
今や黄昏が静めている あらゆる音を 海や陸からの音を 流れゆく雲も止まった 心地良さげに地平線の上に 音もない平安が森を閉ざす 大気の門と化して そして湖の清らかな波も 自らを安らがせようと揺れている 西の方へと太陽は投げ出す その真紅の衣を 波のベッドの中で夢見ているのだ 明日の日の輝きを 今は小さな葉さえ動かぬ この森の華やかな家の中では 今はかすかな物音さえも響かぬのだ 安らげ わが思いよ 安らげ! あらゆる力は沈みゆく 自らの夢の懐へと そしてその力はわれを自分自身へと引き戻すのだ 穏やかな平安に憂いもなく |
1899年 ウィーンのピアノ伴奏付き歌曲のコンクールに応募しようと、若きシェーンベルクはいくつかの歌曲を書きます。それがデンマークの文学者イエンス・ペーター・ヤコブセンの若き日の未完の小説「サボテンの花が開く」の中の、デンマークの古い伝説に基づくヴァルデマル王と少女トーヴェとの愛の物語、「グレの歌」から取られたもの。ドイツ語に訳されたもので、訳はロベルト・F・アルノルトでした。師匠ツェムリンスキーに聴かせたところ、その美しさと独創性は賞賛されたものの、まさにそれゆえに入選の見込みはないであろうということにふたりの意見は一致します。それからほどなく1900〜01年のうちにシェーンベルクはこの「グレの歌」の全体にメロディを付け、その音楽のスタイルから巨大なオーケストラと合唱のついた大曲にすることを構想します。もともとの構想が巨大であったこと、あるいは様々な事情が作曲を妨げたこともあり、結局曲が完成をしたのはそれから10年以上たった1911年、すでにシェーンベルクは無調時代の作品をいくつも書いておりました。
1913年のウィーン初演(シュレーカー指揮)は好評のうちに迎えられ、保守的なウィーンの聴衆に彼の曲が受け入れられた極めて珍しい例となったのだそうです。
ヤコブセンの「サボテンの花が開く」は、ユーリアという美しい娘を持つ花作りが趣味の軍事顧問官が、9年間丹精を込めて育てたサボテンの花が咲こうというその夜に5人の若者を招き、その花が開くまでの時間つぶし彼らに順番に詩や物語を語らせるという物語。三番目の若者パウルが語ったのがこの「グレの歌」登場してくるヴァルデマル王というのは実在の国王(12世紀の1世という説と14世紀の4世という説があるようです)の悲恋の物語。美しき娘 トーヴェを愛した王は彼女との逢瀬を重ねますが、その関係に嫉妬した王妃ヘルヴィヒは彼女を殺してしまいます。彼女を死なせてしまったことで神を呪ったヴァルデマル王は呪いを受け、死後も亡霊となって夜な夜な狩りを続けますが、最後は救済されて大自然の中で安らかな眠りにつく、といったストーリー、グレというのは実際にある地名で、首都コペンハーゲンがあるシェラン島、その北部にある町ヘルシンゲルから5kmほど内陸に入ったところにあるグレ湖のほとりに王があいびきを重ねた古城があったのだそうです。
第1部はまず、ヴァルデマル王(テノール)とトーヴェ(ソプラノ)が交互に歌う9曲の独唱から始まります。絢爛たる夕暮れの情景を表すオーケストラの長い前奏に引き続いて始まる最初の歌は、これからトーヴェのところに向かうヴァルデマルのモノローグ。美しいこの日没を静かな感動とともに語っています。ドイツ語の訳詞では海(Meer)となっていますが、ここは湖であろうということで湖と訳しました。
( 2012.10.28 藤井宏行 )