仏陀 或は「世界の謎」 |
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赭土の多い丘陵地方の さびしい洞窟の中に眠つてゐるひとよ 君は貝でもない 骨でもない 物でもない。 さうして磯草の枯れた砂地に ふるく錆びついた時計のやうでもないではないか。 ああ 君は「真理」の影か 幽霊か いくとせもいくとせもそこに坐つてゐる ふしぎの魚のやうに生きてゐる木乃伊(みいら)よ。 このたへがたくさびしい荒野の涯で 海はかうかうと空に鳴り 大海嘯(おほつなみ)の遠く押しよせてくるひびきがきこえる。 君の耳はそれを聴くか? 久遠(くをん)のひと 仏陀よ! |
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萩原朔太郎のスケールの大きな詩に、音楽も負けじと畳み掛けてきます。洞窟の中の石仏か、あるいは即身成仏をした人の遺骸なのか? 不思議な情景描写が、赤茶けた色合いを強調した中で綴られて行きます。
( 2012.08.03 藤井宏行 )