千鳥と遊ぶ智恵子 智恵子抄 |
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人つ子ひとり居ない九十九里の砂濱の 砂にすわつて智恵子は遊ぶ。 無數の友だちが智恵子の名をよぶ。 ちい、ちい、ちい、ちい、ちい―― 砂に小さな趾(あし)あとをつけて 千鳥が智恵子に寄つて來る。 口の中でいつでも何か言つてる智恵子が 兩手をあげてよびかへす。 ちい、ちい、ちい―― 兩手の貝を千鳥がねだる。 智恵子はそれをぱらぱら投げる。 群れ立つ千鳥が智恵子をよぶ。 ちい、ちい、ちい、ちい、ちい―― 人間商賣さらりとやめて、 もう天然の向うへ行つてしまつた智恵子の うしろ姿がぽつんと見える。 二丁も離れた防風林の夕日の中で 松の花粉をあびながら私はいつまでも立ち盡す。 |
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詩集では28番目の詩。昭和12年7月に書かれたもの。深刻な状況を描き出していますが、却って詩情があふれる美しい情景のように思えてしまうのはなぜでしょうか。清水脩の歌曲集でも一番ロマンティックのように思いましたが、この全体的にロマンティックな別宮版の「智恵子抄」でもひときわロマンティックな味わいのする素敵な曲です。
( 2012.03.17 藤井宏行 )