僕等 智恵子抄 |
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僕はあなたをおもふたびに 一ばんぢかに永遠を感じる 僕があり あなたがある 自分はこれに盡きてゐる 僕のいのちと あなたのいのちとが よれ合ひ もつれ合ひ とけ合ひ 渾沌としたはじめにかへる すべての差別見は僕等の間に價値を失ふ 僕等にとつては凡てが絶對だ そこには世にいふ男女の戦がない 信仰と敬虔と恋愛と自由とがある そして大変な力と権威とがある 人間の一端と他端との融合だ 僕は丁度自然を信じ切る心安さで 僕等のいのちを信じてゐる そして世間といふものを蹂躪してゐる 頑固な俗情に打ち勝つてゐる 二人ははるかに其処をのり超えてゐる |
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第3曲目は詩集では13番目、大正2年の12月の詩とあります。
激しく熱烈な愛の詩。あまり日本では見つけないような内容の生々しさです。また世間の偏見に対し断固戦うという強い決意も見せつつ力強くこの愛を讃えます。
別宮のつけたメロディは非常に楽天的に華やかなもの。まるでナポリのカンツォーネを思わせるような臆面もない愛の讃歌となりました。
なお、歌詞は詩の前半部分だけを取っており、詩では後半はさらにこんな熱い愛の言葉が続きます。さすがにこれを全部歌にするとお腹がいっぱいになりそうですが、ちょっとそれも聴いてみたかった感じもします。
僕は自分の痛さがあなたの痛さである事を感じる
僕は自分のこころよさがあなたのこころよさである事を感じる
自分を恃むやうにあなたをたのむ
自分が伸びてゆくのはあなたが育つてゆく事だとおもつてゐる
僕はいくら早足に歩いてもあなたを置き去りにする事はないと信じ 安心してゐる
僕が活力にみちてる様に
あなたは若若しさにかがやいてゐる
あなたは火だ
あなたは僕に古くなればなるほど新しさを感じさせる
僕にとつてあなたは新奇の無尽蔵だ
凡ての枝葉を取り去つた現実のかたまりだ
あなたのせつぷんは僕にうるほひを与へ
あなたの抱擁は僕に極甚の滋味を与へる
あなたの冷たい手足
あなたの重たく まろいからだ
あなたの燐光のやうな皮膚
その四肢胴体をつらぬく生きものの力
此等はみな僕の最良のいのちの糧となるものだ
( 2012.02.25 藤井宏行 )