Chanson de Depart Chansons de Don Quichotte |
旅立ちの歌 ドン・キホーテの歌 |
Ce château neuf,ce nouvel édifice Tout enrichi de marbre et de porphyre Qu'amour bâtit château de son empire où tout le ciel a mis son artifice, Est un rempart,un fort contre le vice, Où la vertueuse maîtresse se retire, Que l'oeil regarde et que l'esprit admire Forçant les coeurs à lui faire service. C'est un château,fait de telle sorte Que nul ne peut approcher de la porte Si des grands rois il n'a sauvé sa race Victorieux,vaillant et amoureux Nul chevalier tant soit aventureux Sans être tel ne peut gagner la place. |
かの新しい城 かの新しい館 みな大理石と斑岩で飾られている そこは愛が自らの帝国の城を建てたところ 天のすべてがその技巧を尽くしている 防塁なのだ 悪と戦う城塞だ そこには美徳あふれる貴婦人が隠れておられる 目が見つめ 心が憧れる貴婦人が 多くの心をかしずかせている 城塞なのだ そのように作られた 何人たりとてもその門に近づくことはできぬ もし彼が強大な王たちから民衆を救うことがないのならば 勝利を得て 勇敢にして愛情に満ちつつ いかなる騎士とて たとえ冒険好きであろうとも そのような人物でなくば そこを勝ち得ることはできぬ |
イベールがバス歌手のフェドール・シャリアピンのために書いた4曲からなる「ドン・キホーテの歌」、もともとは1933年のシャリアピン主演の映画音楽でした。この映画音楽の作曲、もともとはラヴェルに委嘱されていたのですが、彼の作曲が間に合わなかったためにこのイベールの曲が映画で使われたというのは有名な話です。映画が有名になったために、イベールのこの曲も結果として彼の声楽作品の中では最も有名な曲になりました(他にも映画製作者は実はファリャやミヨー、ドラノワといった人たちにも密かに委嘱していたとのこと)。4曲は「ドン・キホーテの出発の歌」「ドゥルシネアに寄せる歌」「公爵の歌」そして「ドン・キホーテの死」で、ここで取り上げた最初の1曲以外は映画の台本を書いたアルノー(Alexandre Arnoux)によるとなっておりますが、この曲だけはなぜかどの解説を見ても16世紀の詩人、ピエール・ド・ロンサールの詩ということになっているのです。もちろんロンサールの没年(1585)よりも、セルバンテスが「ドン・キホーテ」を発表したのはずっとあとのこと(1605)ですので、ロンサールがドン・キホーテの詩を書いたわけではありませんし、詩の形もソネットにはなっていますが、言葉がそんなに古くないので詩自体にかなり手が入れられているものと思われます(まだ私はロンサールの詩の中にこの内容に該当するものを見つけられておりません)。従って著作権的には載せて良いのかどうか微妙なところなのですが、一応世の中ではロンサールの詩ということになっていますので原詩と訳詞、両方を掲載させて頂きます。他の3曲は残念ながら歌詞の著作権が確実に生きておりますので掲載はできません。ご了承のほど。
イベールの書いた音楽はスペイン情緒あふれたディープなもの。映画の音楽だから当然といえばそうですが。この出発のシーンはとりわけしみじみとした味わい。貴婦人の隠れ住むという城塞に、本物の騎士となって行こうという決意を馬の上から訥々と語ります。牛小屋の前で寝ている牧童たちの迷惑も顧みずに...
本当にこの歌詞がロンサールのものだとしたら、よくもまあこんなに映画のシーンにはまった詩を見つけてきたものだと感心してしまいます。映画はDVDになっているようですし、Youtubeでは英語版ですが見ることができます。1933年の映画ですので、映画としては著作権が恐らく切れているのでしょうね。
( 2012.01.28 藤井宏行 )