Du bist die Ruh Op.59-3 D 776 |
君はわが憩い |
Du bist die Ruh,der Friede mild, die Sehnsucht du,und was sie stillt. Ich weihe dir voll Lust und Schmerz zur Wohnung hier mein Aug und Herz. Kehr ein bei mir,und schließe du still hinter dir die Pforten zu. Treib andern Schmerz aus dieser Brust. Voll sei dies Herz von deiner Lust. Dies Augenzelt,von deinem Glanz allein erhellt,o füll es ganz. |
君は憩い、穏やかな安らぎ、 君は憧れ、そして憧れを静めるもの。 僕はすべての喜びと痛みに満ちて ここ、僕の目と心を住処として捧げよう。 僕のところにおいで、 君の後ろの扉は全部閉めて。 他の痛みをこの胸から締め出しておくれ。 この心を君の喜びでいっぱいにしておくれ。 この目の住処を照らすのは君の輝きだけなのだ、 おお、住処に輝きを満たしておくれ。 |
・・・テキストをタイプしながら、ぞくぞくして鳥肌が立ってきました。
リュッケルトは、言葉がとてもきれいですね。響きもきれい。
Op.59 の流れに沿えば、この詩は他でもない、1曲目で
「あなたなんか愛してないわ!」と言い放った彼女に向けられているんです。
そんな彼女なのに、それでもこの荒れ狂う世界の憩いであり、
太陽なんですね。ああ・・・。
失恋とは、そんなものかも。
そんなわけない、違う彼女でも見つけたんだろ!という解釈は、この際無しです。
それじゃ、Op.59 の組み合わせのすごさは出ません。
何より、2曲目と3曲目の間に他の曲は入ってないしね。^_-
“Ruh” “Friede” 今の世の中にあっては「休み」「平和」=「何もないこと」と
受け取られがちですが、違うんです。
サハラ砂漠で、生きるか死ぬかと言う不安を胸に何日もさまよった後、
ようやくオアシスにたどり着いたところを想像してみてください
(って、私ももちろん経験はないですが^^;)。
“Ruh” “Friede”=「天国」「極楽」くらいのイメージですよね。
「僕のところにおいで」と言ったって、来てもらえないのは
わかってるんです。でも、この呼びかけが、彼の気持ちなんです。
彼女がいてくれるだけで、この世に天国が現れるんです。
得られるわけがないのはわかってる、でも、この心の底から突き動かす
望みは静めようもない、この憧れを捨てずに心の底に抱いて生きていく
・・・ここらあたりが、なんだかとってもシューベルトらしい気がします。
現実世界で幸せに生きていくには、向かないキャラクターですが。
ちなみに “Sehnsucht” って単語、日本語では「憧れ」と訳されますが、
この「憧れ」って雲の上にあって届かない物、できたら欲しいけど
どーせ手に入らないとあきらめている物っていう、
ふわふわしたイメージないですか?
ドイツの日常生活ではいざ知らず、詩で出てくるときは、「どうしても
どうしても是非欲しいけど、絶対手に入らない物」であって、
あきらめの感情はないんです。これは、痛い!
だから「すべての喜びと痛みに満ちて」なんですね。
7行目の「他の痛み」は彼女から受ける以外の痛み、彼女から受ける痛みなら
喜びとセットで、喜んで受け取るよ、ということです。
留学の時のレッスンで、「憧れを感じる練習」?がありました。
とっても簡単で、一点を思い浮かべて「どうしてもそこへ行きたい」
「でも行けない」「それでもぜひぜひそこへ行きたい」という二つの
矢印(行きたい矢印と引き戻す反対方向の矢印)を胸の中で同時に
感じ、思いを強めていきます。胸は文字通り張り裂け、痛いです。ToT
こういう状況で生きるのって、あまりにつら過ぎます・・・。
*読解のポイント
1行目”Ruh” は “Ruhe” の “e” が省略されています。
“Friede” は “Frieden” の雅語だそうで、”Herz” と同じ語尾変化をします!
あまりにしょっちゅう使われるうちにめんどくさくなっちゃって、”Frieden”
に変わったのかしら?!
3、4行目、語順がややこしいですが、捧げる物は最後の”mein Aug und Herz”
“voll Lust und Schmerz” は副詞句、”zur Wohnung” の “zu” は用途を表す、
というわけですね。
4行目の”Aug” は “Auge” の “e” が省略されています。
ささいなことですが、6行目”die Pforten” と複数形になっているので、
「全部」を補ってみました。
9行目、”Augenzelt” は詩的な表現で、”Auge” + “Zelt” です。
10行目の”allein” は “nur” と同じ意味で、”von deinem Glanz” にかかります。
最後の行の “es” は “das Augenzelt” です。
作品59 次の曲へ 笑いと涙 D 777(Op.59-4)
メールマガジン「歌曲つれづれ」より許可を頂いて転載いたしました
( 2010.09.21 Pianistin )