Verlassen Op.6-4 8 Lieder |
見捨てられた 8つの歌 |
Im Morgengrauen schritt ich fort - Nebel lag in den Gassen... In Qualen war mir das Herz verdorrt - Die Lippe sprach kein Abschiedswort - Sie stöhnte nur leise: Verlassen! Kennst du das Marterwort? Das frißt wie verruchte Schande! In Qualen war mir das Herz verdorrt - Im Morgengrauen ging ich fort - Hinaus in die dämmernden Lande! Entgegen dem jungen Maientag: Das war ein seltsam Passen! Mählich wurde die Welt nun wach - Was war mir der prangende Frühlingstag! Ich stöhnte nur leise: Verlassen! |
朝焼けの中 私は歩いた 霧が道に立ち込めていた 苦しみで私の心はやつれ果てていた -唇はお別れの言葉を一言も語らず- ただ静かにうめいた 「見捨てられた」と お前はこの苦痛の言葉を知っているのか? それは呪われた恥辱のように喰らい付いてくる 苦しみで私の心はやつれ果てていた -朝焼けの中 私は進んだ- 朝焼けに輝く土地の向こうへと 若やいだ五月の日だというのに よそよそしい色合いだった 次第に世界は目覚めてきた -私にとってこの光り輝く春の日が何だというのか 私はただ静かにうめいた 「見捨てられた」と |
作曲家シェーンベルクを高く評価していた演奏家はたくさんおりますが、いわゆる「現代音楽のスペシャリスト」でなく、古典まで含めた幅広いジャンルで高い人気を誇った人でシェーンベルクの熱烈な愛好者というのはそれほど多くはないように思います。そんな中、バッハの演奏で一世を風靡したカナダのピアニスト、グレン・グールドはかなり突出したシェーンベルクのファンでした。ピアノの絡むシェーンベルクの器楽・室内楽・歌曲のほとんどの作品の録音を残しており、彼自身が死後も人気の高いピアニストであったために、これらシェーンベルクの作品もほとんどがカタログに残り、ものによっては現在容易に聴くことのできるシェーンベルク作品の唯一の録音となっているのは大変に有難いことです。
そんなグールドには1974年、シェーンベルクの生誕100年を記念して企画されたラジオでの対談番組を文字起こしした「グールドのシェーンベルク」(邦訳 筑摩書房)という著書があり、その中の1章(ということはラジオ番組の丸々1セッション)がシェーンベルクの歌曲に割かれています。
実際彼には2枚のピアノ伴奏によるシェーンベルク歌曲録音があり、作品1の2曲、作品2の4曲、作品3の6曲、作品6の8曲、作品12の2曲と作品14の2曲、そして作品15の無調時代の大作「架空庭園の書」の15曲と、シェーンベルクが書いた初期のピアノ伴奏歌曲が、あの異色なキャバレーソングを除いてすべて揃っているのです。
そんな彼がとりわけ高く評価したシェーンベルクの歌曲作品がこのOp.6-4、実は歌曲作品というに留まらず、すべてのシェーンベルク作品の中でも屈指の作品と考えていたようなのです。前述の1974年のラジオ番組、第1回目に彼がぜひにこの作品だけは聴いて欲しいと取り上げた3つの中にノミネートされています。(他の2つは作品24の「セレナード」と「室内交響曲第一番」)
シェーンベルクの歌曲はピアノパートがたいへん雄弁に書かれていますが、その中でもこれは飛びぬけて鮮烈で、ピアニスト・グールドが好むのも分かるような気がします。調性はほとんど崩壊寸前ですが、おそろしくロマンティックな響きに溢れているのはまさに世紀末風(もっともこの曲の作曲は1905年なのではありますが)、聴きごたえ十分です。この曲にも白井光子さんの熱唱の録音があります。
( 2011.05.28 藤井宏行 )