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きこえるかしら    
  アニメ 赤毛のアン
 
    

詩: 岸田衿子 (Kishida Eriko,1929-2011) 日本
      

曲: 三善晃 (Miyoshi Akira,1933-2013) 日本   歌詞言語: 日本語


詩:著作権のため掲載できません。ご了承ください


今の40代以下の方は、子供の頃、日曜日の夜7時半からのテレビでやっていたアニメーション番組「世界名作劇場」を毎週楽しみに見ていた記憶があるでしょうか。「アルプスの少女ハイジ」や「フランダースの犬」、「母をたずねて三千里」に「あらいぐまラスカル」と印象的な作品が続きました。アニメ本篇もさることながら、そのオープニングとエンディングの歌も粒ぞろいの傑作、もう30年も昔の曲ですが今でもそらんじられる方は多いのではないでしょうか。
先日亡くなられた詩人の岸田衿子さんは、そんな「世界名作劇場」の主題歌をたくさん手がけられてきました。「アルプスの少女ハイジ」を最初にして「フランダースの犬」、「あらいぐまラスカル」に「赤毛のアン」といったところ。
新聞の訃報記事では大ヒットとなった「ハイジ」の主題歌の作詞者であることが言及されていました。しかし元クラシックおたくとしてはやはり「赤毛のアン」のオープニングのこの「きこえるかしら」とエンディングの「さめない夢」の2曲にこだわってみたいところです。「ハイジ」をはじめとする他の3作品を作曲した渡辺岳夫の才気あふれる音楽も大変魅力的ではありましたが、この「赤毛のアン」の音楽、現代音楽の世界で切れ味鋭い作品を生み出している三善晃の作品なのです。子供向けのテレビ番組の曲ですから、クラシックコンサートで聴かれるような耳に突き刺さってくる鮮烈な音楽ではありませんが、三善氏自らが編曲もしている音楽は一味もふた味も違う色とりどりのオーケストレーションで今聴いてもとても印象深いです。Youtubeでタイトルで検索していただければ聴くことができると思いますのでぜひ聴いてみてください。大和田りつ子さんの愛らしい歌声とともに、いずれの2曲も忘れ難い味わいだと思います。

この歌の誕生のエピソードが、コロムビアのレコードプロデューサーをされていた木村英俊氏の著書「The アニメソング ヒットはこうして作られた(角川書店)」に書かれていました。少し引用します。

(前略) 三善先生に是非書いてもらいたいと強く主張したのは高畑勲監督で、それに同調して、中島順三プロデューサーも強硬にお願いしてきた。(中略)中島プロデューサーとどれだけ討議したことだろう。しかしどんな条件であっても、三善先生に...ということで決まった。
三善先生に電話で、討議した結果を率直に伝え、お願いの内容を説明した。先生が
「分かりました。三十分ほど時間をあけましょう」
と言ってくださった時は、本当にほっとした思いだった。
翌日、高畑監督、中島プロデューサーと三人で、桐朋学園大学の学長室を訪れた。
高畑監督の熱心な説明を聞いたうえで、岸田さんの歌詞をジーッとみていた。
(こりゃ、駄目かな)
内心ハラハラしていたのは、私だけではなかった。先生は、やがてニッコリ笑いながら、
「やってみましょう」
しばし無言だったのは、曲想を考えていたのだろう。約束の時間を一時間も超過して、ミーティングは終わった。(後略)

このあともピアノスケッチでのエピソードや、放映後にテレビ局内の評判が悪く一度は差し替えられようかという危機があったことなど、興味深い話が続きます。ぜひご覧になってください。


岸田さんの詩は、あまり歌詞という感じのしない自然体ではありますが、詩として読んでみるとなんとなく不思議な(あまりこういう言い方はしないよな、と思えてしまう)言葉づかい、しかしそれが歌になってみると「ハイジ」でも「ラスカル」でもこの「赤毛のアン」でも絶妙のはまり具合、そこがなんとも面白いです。「かばくん」をはじめとした子供の絵本の文をたくさん書いた人、言葉にも独自のセンスを持っていたのでしょう。ご冥福をお祈りします。

( 2011.04.15 藤井宏行 )


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