Freudvoll und leidvoll S.280 |
喜びでいっぱい そして悲しみでいっぱい |
Freudvoll Und leidvoll, Gedankenvoll sein; Langen Und bangen In schwebender Pein; Himmelhoch jauchzend Zum Tode betrübt; Glücklich allein Ist die Seele,die liebt. |
喜びでいっぱい そして悲しみでいっぱい 思いでいっぱいなのです あこがれ そして不安になる 絶え間ない痛みの中で 天高く歓呼し 死ぬほどに心沈む 幸いなるはただ 恋する魂だけなのです |
ゲーテの戯曲「エグモント」より、エグモントの恋人クレールヒェンが第3幕で歌う歌です。これもまたベートーヴェンはじめたくさんの曲がありますが、その中でもこのリストの曲は良く知られている方でしょう。
興味深いのは、リストはこの詩に全く別のふたつのメロディをつけてひとつの作品としていることで、更に1844年の作曲に加えて片方のバージョン(第1作)は1860年ごろに改訂を施していること。結果として同じ曲に3つの版が現れることとなりました。
一番よく取り上げられるのは1860年に改訂されたおとなしい方の第1作。ピアノの伴奏を簡素にした分、この曲の精神性が際立つこととなりました。前半の「絶え間ない痛みの中で」まではピアノも歌も静かに進行しますが、このすぐあとにピアノが激しいファンファーレを奏で、歌も愛への憧れを高らかに歌います。このメロディの改訂前のものは同じコンセプトではありますが歌も伴奏もかなり雄弁で、簡素な後の版に慣れた耳にはちょっと濃密に響きます。まるでベルリーニやドニゼッティのオペラのアリアのような感じ。舞台にかけるのにはこの方が良さそうではありますが。
もうひとつのメロディの方の版(第2作)はもっと華麗です。苦しみよりは愛の喜びを高らかに歌うといった感じのものです。
フンガロトンレーベルのCDで、これら3つの版をまとめて聴き比べできるようにしているものがありました(ベルナデット・ヴィーデマンのメゾ・エメシェ・ヴィラーグのピアノ)。この曲だけでなく、「御身 天より来たりて S.279」・「ペトラルカの3つのソネット S270」などのいくつかの版の聴き比べができます。
( 2011.02.06 藤井宏行 )