恋の命日 |
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詩:著作権のため掲載できません。ご了承ください
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大中恩さんの1993年の作品、まだ出来て10年も経っていない新しい歌曲集ですが、この作品で最も注目すべきは、詩があの有名な女優、黒木瞳さんのものだということです。
女優の余芸というにはあまりに良く出来た詩(確か角川かどこかの文庫本になっていたはず。興味のある方は見て下さい)に、大中さんの美しくも艶めかしいメロディーが付いて、とても魅力的な作品になりました。
詩は残念ながらご紹介できないので、曲のタイトルだけ並べますと、
困った はなし
蓮台
風見鶏
秋霖(しゅうりん)の景色
指紋
化粧
花のいのち 恋のいのち
恋の命日
の8曲です。
物凄くストレートな恋の心の揺らぎを言葉にしているので
「酒の匂うあなたに 酔うあたし」(「困った はなし」より)とか、
「あたしやきもちのぶんだけ愛されている」(「風見鶏」より)とか
歌謡曲のフレーズになってもおかしくないような鮮烈な言葉がピアノ伴奏で折目正しく歌われるのは非常に印象的です。
考えてみれば日本の歌曲で、こういう強烈な情感(とフェロモン)を醸し出す恋の歌というのはあまりないですよね(皆無かも?)。
「あたし」という一人称で歌われる歌曲というのはちょっと考えても全く思い当たりませんでした。
大中恩さんには「愛の歌曲集」とかいうCDシリーズがもう第5集くらいまで出ていて、確かその中にも収録されていたのではないかと思いますが(私は未聴)、やはりここは初演者でもある福原久美さんの「花恋抄」というCDに、湯山昭・中田喜直両作品と一緒に収録されているPLATZ(学研)盤をお勧めしておきましょう。
この中の中田喜直さんの名曲「さくら横ちょう」や「むこうむこう」の歌も非常に美しいですし、何より冒頭に収録されている湯山昭さんの「3つのセレナーデ」が実に魅力的な曲なのです。(これは別途ご紹介します)
その間に挟まれたこの歌曲集では「ふたりでいても心が離れちゃいやだからあなたの肌に触れている」(「指紋」より)といった思わずドキリ、とするようなフレーズに耳をそばだててしまいます。
うーん、やはりちょっと不思議な感覚...
でもシューマンやドピュッシーの歌曲の中にも、そういう風に訳されていないだけで、こういうパッションを持った曲はありますよね。
シューマンの「女の愛と生涯」の前半なんかを「あたし」の一人称で翻訳してみるのも面白いかも...(私がやると悪趣味になるのでやりません)
( 2003.01.17 藤井宏行 )