智恵子抄巻末の歌六首 |
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ひとむきにむしやぶりつきて為事(しごと)するわれをさびしと思ふな智恵子 気ちがひといふおどろしき言葉もて人は智恵子をよばむとすなり いちめんに松の花粉は浜をとび智恵子尾長のともがらとなる わが為事いのちかたむけて成るきはを智恵子は知りき知りていたみき この家に智恵子の息吹(いぶき)みちてのこりひとりめつぶる吾(あ)をいねしめず 光太郎智恵子はたぐひなき夢をきづきてむかし此所(ここ)に住みにき |
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清水脩の傑作のひとつが歌曲集「智恵子抄」ですが、この作曲の最中の1964年、同じ詩集の中より一連の詩のあとに載せられている6首の短歌を選び、無伴奏の男声合唱曲を書いています。この6首はそれまでの詩篇のダイジェストになっており、凝縮された言葉の中に彼女との思い出が熱く込められています。
はじめの3首は各々の歌を2回ずつ繰り返し、後半3首は1回ですが重要なフレーズのみを効果的に繰り返して、およそ5分ほどの作品ですが、重厚な響きの中変化に富んで聴きごたえのある作品です。
愛の穏やかな表情を見せたかと思うと、周囲の無理解に怒りをぶつけ、童女に帰った妻を暖かくみつめ、そして先立たれた妻のことを思い眠れぬ夜を過ごし、そして最後にすべてをふっ切って思い出に生きる。短いフレーズに絶妙の表情付けはさすが合唱作品に手慣れた名人の腕だけあります。
現在でも比較的良く取り上げられているようですので、少なくとも歌曲集よりは聴けるチャンスは多いのではないでしょうか。歌曲集の方ももっと聴ける機会が欲しいところではありますが...
Victorの日本合唱曲全集のCDではこの作品を委嘱した東海メールクワイアーの渾身の演奏が収録されています。1967年録音ということですので作曲の3年後の録音ですね。
( 2011.01.01 藤井宏行 )