Märzveilchen Op.40-1 Fünf Lieder |
三月スミレ 5つの歌曲 |
Der Himmel wölbt sich rein und blau; Der Reif stellt Blumen aus zur Schau. Am Fenster prangt ein flimmernder Flor; Ein Jüngling steht,ihn betrachtend,davor. Und hinter den Blumen blühet noch gar. Ein blaues,ein lächelndes Augenpaar, Märzveilchen,wie jener noch keine gesehn. Der Reif wird,angehaucht,zergehn. Eisblumen fangen zu schmelzen an, Und Gott sei gnädig dem jungen Mann. |
空は丸く 澄み切って真っ青だ 霜が花となって姿を見せている 窓がきらきら光る花びらで飾られているのだ ひとりの若者がその前に立ち 中を覗き込む 霜の花の向こうに、なおも咲いている 青い、微笑むふたつの瞳 三月スミレだ、それはだれもまだ見たことのないような 霜は、息を吹きかければ融けてゆくだろう 氷の花は融け始めた 神様、この若者に恵みを授けたまえ |
作品40の歌曲集は、作品31同様、「女の愛と生涯 作品42」を書くこととなったシャミッソーの手になる詩です。そして作品31の3曲中2曲がフランスのベランジェの詩のシャミッソーによるドイツ語訳であったのと同様、この作品40の5曲のうち4曲はアンデルセンのデンマーク語の詩をシャミッソーがドイツ語に訳したものです。
(最後の1曲はギリシャの民衆詩をフランス語経由でシャミッソーが訳したものです)
アンデルセンの詩につけた4曲はいずれもインパクトの強い情景描写に、シューマンの歌曲としてもひときわ雄弁なメロディが付けられていて非常に聴き応えのあるもの。歌曲集に人目を惹きやすいタイトルがないために聴衆側の人気はいまひとつのような感じですが、歌い手の側ではとても評価が高い作品のようでけっこう良く取り上げられています。CDでも数枚のシューマン歌曲選集といったものを組む場合には大抵このOp.40は入れられています(ストルツマン、ゲルハーエル、シュライアーなど)。鮮烈なテーマにダイナミックな音楽が付けられた、個人的には「詩人の恋」に並ぶシューマン歌の年・1840年の歌曲の傑作だと思っています。
第1曲目は爽やかな、恋の始まりを予感させる歌です。まだ寒い早春のころでしょうか。北国はまだ早春といっても雪と氷に閉ざされ、ガラスの窓にも霜が張っています。けれど窓の外に立つ若者の目の前には霜に覆われたガラス越しに微笑む女の子のきれいな青い瞳。まるで雪の中に咲き出でる青いスミレの花のような...
暖かくも優しい眼差しが詩にもメロディにも現れて、短いながらもとても素敵な歌になりました。
Märzveilchenは強い香りがする花であることから日本では「ニオイスミレ」と訳されており、この曲もその名で呼ばれることが多いですが、私はやはり春まだ浅い雰囲気を大事にして、言葉通り直訳の「三月スミレ」とここはしておきたいと思います。
( 2010.12.15 藤井宏行 )