TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ


Der arme Peter   Op.53-3  
  Romanzen und Balladen III
哀れなペーター  
     ロマンスとバラード第3集

詩: ハイネ (Heinrich Heine,1797-1856) ドイツ
    Buch der Lieder - Junge Leiden - Romanzen(歌の本-若き悩み-ロマンス 1827) 4 Der arme Peter

曲: シューマン,ロベルト (Robert Alexander Schumann,1810-1856) ドイツ   歌詞言語: ドイツ語



Der Hans und die Grete tanzen herum,
Und jauchzen vor lauter Freude.
Der Peter steht so still und so stumm,
Und ist so blaß wie Kreide.

Der Hans und die Grete sind Bräut'gam und Braut,
Und blitzen im Hochzeitsgeschmeide.
Der arme Peter die Nägel kaut
Und geht im Werkeltagkleide.

Der Peter spricht leise vor sich her,
Und schauet betrübet auf beide:
Ach! wenn ich nicht gar zu vernünftig wär',
Ich täte mir was zuleide.



“In meiner Brust,da sitzt ein Weh,
Das will die Brust zersprengen;
Und wo ich steh' und wo ich geh',
Will's mich von hinnen drängen.

“Es treibt mich nach der Liebsten Näh',
Als könnt die Grete heilen;
Doch wenn ich der ins Auge seh',
Muß ich von hinnen eilen.

“Ich steig' hinauf des Berges Höh',
Dort ist man doch alleine;
Und wenn ich still dort oben steh',
Dann steh' ich still und weine.”



Der arme Peter wankt vorbei,
Gar langsam,leichenblaß und scheu.
Es bleiben fast,wie sie ihn sehn,
Die Leute auf den Straßen stehn.

Die Mädchen flüstern sich ins Ohr:
“Der stieg wohl aus dem Grab hervor.”
Ach nein,ihr lieben Jungfräulein,
Der steigt erst in das Grab hinein.

Er hat verloren seinen Schatz,
Drum ist das Grab der beste Platz,
Wo er am besten liegen mag
Und schlafen bis zum Jüngsten Tag.


ハンスとグレーテは回って踊り
喜び一杯で歓声を上げている
ペーターはといえば静かに黙って立っていて
チョークのように蒼ざめている

ハンスとグレーテは花婿と花嫁
婚礼の衣装を着て華やかだ
哀れなペーターは爪を噛み
仕事着を着て歩いて行く

ペーターはそっと自分に向かって語りかけ
ふたりに悲しげな目をくれる
ああ ぼくがこんなに正気でなかったら
自分にどんな無茶苦茶をしたか分からない



「ぼくの胸の中から、悲しみが出ていかない
そいつが胸を破裂させそうだ
どこに立ってようと どこに行こうと
そいつはぼくをそこから追い立てようとする」

「そいつはぼくを愛する人のもとへと駆り立てる
あのグレーテが癒してくれるのを知ってるかのように
だけど彼女の目を見つめると
そこから急いで去らなきゃならない」

「ぼくは山のてっぺんまで登る
そこでは誰でも一人きりになれる
そしてそっとそこに立ったなら
黙って立って そして泣くんだ」



哀れなペーターがよろよろと行き過ぎる、
ひどくゆっくりと、死人のように蒼ざめおずおずと
みんな思わず立ち止まる、彼を見たなら
通りを行き交う人々はみな

娘たちは耳元でささやき合う
「あの人、なんかお墓から出てきたみたい」と
ああ、ちがうのだ、可愛いお嬢さんたち
この人はこれからお墓に入ろうとしているんだ

彼は大切な人を失った
だから墓こそが一番いい場所なのだ
そこに横たわっているのが一番なのさ
そして最後の審判の日まで眠っているのが


詩はハイネの「歌の本」から。シューマンは同じようなシチュエーションの失恋の歌物語を同じハイネの詩で「詩人の恋」として1840年の春に書いていますので、これと同時期の作品かと思われたのですが、実際はこの年の秋の作曲のようです。とはいえテーマにしても音楽の雰囲気からしても「詩人の恋」の姉妹作と言っても過言ではなく、しばしばCDなどでは一緒に収録されています。「ロマンスとバラード第3集」の3曲目ですが、雰囲気の全く異なる3曲がひとまとまりとなっていて、この可哀想な青年の悲劇を描き出す小さな物語ができました。
第1曲目は華やかな婚礼のシーン、ハンスとグレーテと言えばマーラーの初期歌曲の中でこのタイトルのものがあり、そこにも出てきたカップルですね。太郎と花子のようにドイツでの一般的なカップル名称なのでしょうか。伴奏にずっと聞こえる持続音は民族楽器ハーディー・ガーディを模したものなのだそうで、それに乗せて楽しげなワルツが続きます。もっとも最後のところではペーターの嘆きを受けたかのようにリズムもメロディも一瞬乱れます。
それを受けての第2曲は激しいピアノ伴奏に乗ってのピーターのモノローグ、心の揺らぎを歌にぶつけてきます。最後の曲はすべてを諦め、死への旅路に踏み出したかのような葬送行進曲。よろよろと歩く感じがよく出ています。ピアノ後奏の最後の一和音が長調に変わって、最後にペーターは安らぎを見出したようですがそれは墓の中。何とも苦い終わり方です。

( 2010.11.23 藤井宏行 )


TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ