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Daß sie hier gewesen!   Op.59-2 D 775  
 
美も愛もここにいたことを!  
    

詩: リュッケルト (Friedrich Rückert,1788-1866) ドイツ
      Daß der Ostwind Düfte

曲: シューベルト (Franz Peter Schubert,1797-1828) オーストリア   歌詞言語: ドイツ語


Daß der Ostwind Düfte
hauchet in die Lüfte,
dadurch tut er kund,
daß du hier gewesen.

Daß hier Tränen rinnen,
dadurch wirst du innen,
wär's dir sonst nicht kund,
daß ich hier gewesen.

Schönheit oder Liebe,
ob versteckt sie bliebe?
Düfte tun es und Tränen kund,
daß sie hier gewesen.

東風が様々な香りを
大気に吹き込んで、
知らせる。
あなたがここにいたことを。

ここに涙が流れる、
そのことによって、あなたは心に描くだろう
そうでなければあなたにはわかるまい、
僕がここにいたことは。

美であろうと愛であろうと、
知られずにおられようか?
香りは知らせ、涙は告げる、
美も愛もここにいたことを。


残り香に相手を思い、涙に相手へ思いが伝わることを望む、
・・・すごく繊細な世界ですね。
焚き染めるお香の香りによって、誰が来たのかを察知する、という
平安時代を思い浮かべてしまいました。^^;

涙によってしか伝えられない恋なのですね。
詩を書いたのはリュッケルトだけど、すごくシューベルトチックな気がします。
音楽も、終始「非常にゆっくり」、ピアニッシモです。

最後の段落なんて、まさに「忍ぶれど 色に出でにけり わが恋は・・・」
の短歌と同じですね。
“Schönheit” は意中の彼女、”Liebe” は僕の気持ち、とイコールだと
考えていいと思います。

形に表れているのは残り香と、涙だけ・・・その微かな徴しに秘められた
情熱の緊張感に圧倒されます。

*読解のポイント

この文、よく読み直してみると、短いのにけっこう手ごわいですね。
Daß ..... は英語なら that 構文、「・・・ということ」です。
Düfte とありますから、香りも一つではなかったのですね。

4行目、普通なら “daß du hier gewesen bist” となります。

6行目の”innen”、おそらく辞書にはないだろうと思います。
これ、実は動詞みたいです。
「内在化させる」「心に思い浮かべる」「思い出す」
・・・ドイツ人の主人に訊いたら、”verinnen” ではないか、と言ってましたが、
これも辞書にはない。近いのは”verinnerlichen” “erinnern”あたりだと思います。
“innen” を使って “rinnen” と韻を踏んでいるのですね。
・・・留学時代にしっかり訊いときゃよかった。(>_<)

7行目、”wär's” = “wäre es” 仮定の接続第2法。
“sonst” そうでなかったら、と組み合わさって、現実とは違う仮定。

10行目、”ob sie versteckt bliebe?” “sie” は”Schönheit” または “Liebe”。
“ob” は辞書によれば独立した副文では、「?かって?」という疑問文を表します。
“bliebe” はおそらく接続法第2法、そこで、現実とは違う→反語的質問の
ニュアンスで訳してみました。

その答えが、11、12行目です。
11行目、わかりづらいですが、普通に書けば “Düfte und Tränen tun es kund,”
でも、詩の語順、わかりづらいけど確かに美しいですねえ。
“es” の内容が “daß sie hier gewesen”。
この “sie” 、9行目の”Schönheit” と “Liebe”ですね。
一瞬、「彼女」のことかと思ってしまいました。^^ゞ


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メールマガジン「歌曲つれづれ」より許可を頂いて転載いたしました

( 2010.09.21 Pianistin )


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