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Das himmlische Leben    
  Des Knaben Wunderhorn
あの世の暮らし  
     子供の不思議な角笛

詩: 少年の不思議な角笛 (Des Knaben Wunderhorn,-) ドイツ
    Des Knaben Wunderhorn,Band 1 162 Der Himmel hängt voll Geigen

曲: マーラー,グスタフ (Gustav Mahler,1860-1911) オーストリア   歌詞言語: ドイツ語


Wir genießen die himmlischen Freuden,
drum tun wir das Irdische meiden.
Kein weltlich Getümmel
hört man nicht im Himmel!
Lebt Alles in sanftester Ruh,
in sanftester Ruh.
Wir führen ein englisches Leben!
sind dennoch ganz lustig,
ganz lustig daneben,
wir führen ein englisches Leben,
wir tanzen und springen,
wir hüpfen und singen!
Wir singen!
Sanct Peter im Himmel sieht zu!

Johannes das Lämmlein auslasset!
Der Metzger Herodes drauf passet!
Wir führen ein gedultig's,
unschuldig's,geduldig's,
ein liebliches Lämmlein zu Tod!
Sanct Lukas den Ochsen tut schlachten
ohn' einig's Bedenken und Achten,
der Wein kost' kein Heller
im himmlischen Keller!
Die Englein,die backen das Brod!

Gut' Kräuter von allerhand Arten,
die wachsen im himmlischen Garten.
Gut' Spargel,Fisolen
und was wir nur wollen!
Ganze Schüsseln voll sind uns bereit!
Gut' Äpfel,gut' Birn' und gut' Trauben!
Die Gärtner,die alles erlauben!
Willst Rehbock,willst Hasen,
auf offener Straßen sie laufen herbei!
Sollt ein Fasttag etwa kommen
alle Fische gleich mit Freuden angeschwommen!
Dort läuft schon Sanct Peter
mit Netz und mit Köder
zum himmlischen Weiher hinein!
Sanct Martha die Köchin muß sein!  
Sanct Martha die Köchin muß sein!

Kein Musik ist ja nicht auf Erden,
die unsrer verglichen kann werden.
Elftausend Jungfrauen
zu tanzen sich trauen!
Sanct Ursula selbst dazu lacht!
Kein Musik ist ja nicht auf Erden,
die unsrer verglichen kann werden!
Cäcilia mit ihren Verwandten
sind treffliche Hofmusikanten!
Die englischen Stimmen
ermuntern die Sinnnen,
ermuntern die Sinnnen.
Daß alles für Freuden,
mit Freuden erwacht.

ぼくたちは満喫してる 天国の喜びを
だから地上のことには関わらないようにしてるのさ
俗世のどんな喧騒も
天国に聞こえてくることはない!
みんな暮らしてるのさ 穏やかな安らぎの中に!
穏やかな安らぎの中に!
ぼくたちは送ってる 天使の生活を!
それだけどぼくたちはとっても 
とっても陽気!
ぼくたちは送ってる 天使の生活を
踊ったり 飛び跳ねたり
飛び上がって歌ったりする 
歌ったりするんだ!
聖ペーター様が天国でご覧になっている!

ヨハネは子羊を放ち
肉屋のヘロデはそれを待ち伏せる!
ぼくたちは追いやってしまうんだ 一頭の忍耐深い
無垢な 忍耐深い
可愛い子羊を死へと!
聖ルカ様は牡牛を屠るけれども
なんにも気にしておられない
ワインを買うのに1ヘラーも要らない
この天国の酒場ではね
小さな天使たちだ パンを焼くのは

あらゆる種類の上等な野菜が
天国の庭園で育っている!
上等のアスパラガス、インゲンマメ
ぼくたちが欲しいものはなんでも!
みんなお椀に山盛りで準備される!
上等のリンゴ、上等のナシに上等のブドウ
庭師は好きなだけ取らせてくれる
鹿が欲しいかい、ウサギが欲しいかい
開けた通りの上を 彼らの方から駆け寄ってくるぞ!
精進の日がやってくれば
あらゆる魚たちが喜んで泳ぎ上がってくる
そこにはもう聖ペーター様はお出ましだ
網と餌を持って
天国の湖の中へと入ってゆく
聖マルタ様がお料理をなされるだろう
聖マルタ様がお料理をなされるだろう

どんな音楽も地上にはないのさ
ぼくたちのところのと比べられるほどのものは
一万一千もの乙女たちが
恥じらいもせずに踊る!
聖ウルスラ様も御みずからお笑いになる
どんな音楽も地上にはないのさ
ぼくたちのところのと比べられるほどのものは
ツェツィーリアはその一族たちと一緒に
すばらしい楽士たちになってくれる
天使たちの声は
心を朗らかにして
心を朗らかにして
すべてのものは喜びに
喜びに目覚めるんだ!


交響曲第4番の終楽章では清楚なソプラノの声なんかでかわいらしく歌われておりますから、穢れのない天国での生活を清く正しく美しく表しているように思わされてしまいますが、実はかなりこの作品、詩も音楽も曲者のように思います。「少年の不思議な角笛歌曲集」の第5曲目に、腹をすかせた子供を死なせてしまう母親の姿を描いた「この世の暮らし Das irdische Leben」というのがありますが、この曲はまさにこれと対になっているのですね。それもあって定訳のタイトルでは「天上の生活」とか「天国の暮らし」などとなっていますけれども、ここではあえて「あの世の暮らし」と致しました。
「地上のことに関わらないようにして」、飽食と享楽にふける、というのは現代でもどこかの先進国の国民のライフスタイルそのままのようで、実は天国ってけっこう邪悪なところなのかも知れません。
というよりもこの詩を書いた中世〜近世の民衆にとっては、イメージできる極楽というのが、恐らく彼らの目の前で享楽にふけっている支配階級層の生きざましかなかったということもあるかと思いますので、こんな風になっているというのが本当のところではないでしょうか。
第1節の最後で出てくる聖ペーター(ペテロ)、第11曲でも登場しておりますが、ちょうどこの個所でのメロディがあちらの曲でも使われており、罪を嘆く彼のテーマとして共有されているようです。
その次の節では子羊(とありますがこれはもちろんイエス・キリストのことですね)を殺してしまうことが描かれております。ここでのちょっと不安に満ちたメロディも、第11曲でペテロが「十の誓いを破ってしまいました」と嘆くところで現れてきています。聖ルカはもとの職業が医者だったそうですので、雄牛の解剖はお手のものなのでしょうか。次の「ここではワインは無料だ」というのと「天使たちがパンを焼いている」と次々展開している流れには唐突感が否めませんけれど。

その次の節のFasttagは断食ですが、キリスト教では獣の肉を食さない日ということで、金曜日がそれにあたります。「精進の日」という仏教用語をあててしまいましたが意味合いは伝わるかと思います。ペテロはもとの職業が漁師であったということでここでは活躍しているというわけですね。この節の最後に出てくる聖マルタというのは、イエスを喜ばせた働き者の娘だったのだそうで(ルカ伝)、そのあたりがここでお料理をすることにつながっているというわけでしょう。

最後の節、ケルンの町の守護聖女としても知られる聖ウルスラですが、伝説では4世紀のブリテン島の王女で、1万1千人の侍女たちとともにヨーロッパを巡礼し、ケルンを包囲していた異教徒の手によって皆虐殺されたということになっています。
1万1千人という、やや半端に詳しい人数の乙女がここに登場するのはそういうわけです。
おしまいに登場する聖ツェツィーリア(セシリアあるいはチェチーリア)ですが、まだキリスト教を認めていなかった頃のローマ帝国の貴族の女性だったのだそうで、時のローマ皇帝によって弾圧され殉教しています。神を讃えるのに楽器を奏でつつ歌ったことから、音楽をつかさどる聖人ということにされているでしょうか。そういえばローマの有名な「聖チェチーリア音楽院」も彼女の名を冠していますね。

(2010.08.13)

訳詞改訂しました。

( 2012.08.31 藤井宏行 )


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