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Wo die schönen Trompeten blasen    
  Des Knaben Wunderhorn
美しきトランペットが鳴り響くところ  
     子供の不思議な角笛

詩: 少年の不思議な角笛 (Des Knaben Wunderhorn,-) ドイツ
    Des Knaben Wunderhorn,Band 3 63 Bildchen

曲: マーラー,グスタフ (Gustav Mahler,1860-1911) オーストリア   歌詞言語: ドイツ語


Wer ist denn draußen und wer klopfet an,
der mich so leise,so leise wecken kann?

Das ist der Herzallerliebste dein,
steh' auf und laß mich zu dir ein!
Was soll ich hier nun länger steh'n?
Ich seh' die Morgenröt' aufgeh'n,
die Morgenröt',zwei helle Stern',
Bei meinem Schatz,da wär ich gern'!
Bei meiner Herzallerlieble!

Das Mädchen stand auf und ließ ihn ein,
sie heißt ihn auch willkommen sein.

Willkommen trauter Knabe mein!
So lang hast du gestanden!

Sie reicht' ihm auch die schneeweiße Hand.

Von ferne sang die Nachtigall,
da fängt sie auch zu weinen an!

Ach weine nicht,du Liebste mein,
ach weine nicht,du Liebste mein!
Auf's Jahr sollst du mein Eigen sein.
Mein Eigen so llst du werden gewiß,
wie's Keine sonst auf Erden ist!
O Lieb auf grüner Erden.

Ich zieh' in Krieg auf grüner Heid;
die grüne Heide,die ist so weit!

Allwo dort die schönen Trompeten blasen,
da ist mein Haus,mein Haus von grünem Rasen!

誰が外にいるの 誰がノックしてるの
私をこんなにそっと、そっと目覚めさせられる人は誰?

それはお前の心の恋人さ
さあ起きて ぼくをお前のところに入れてくれよ!
どうしてぼくはここでずっと立ってなくちゃいけないんだい?
ぼくには朝焼けが広がるのが見える、
朝焼けのバラ色に、二つの明るい星
ぼくの恋人のそば、そこにぼくはいたいのさ!
ぼくの心から愛する人のそばに

娘は起き上がって彼を中に入れ、
それから彼に歓迎のことばをかける

来てくれたのね、私の大切な人、
ずっと長いこと立っていたのかしら!

彼女は彼に雪のように白い手を差し出す。

遠くではナイチンゲールが歌ってた
そして彼女もすすり泣きはじめた!

ああ泣かないで、ぼくの愛する人よ、
ああ泣かないで、ぼくの愛する人よ!
これから一年のうちにお前はぼくのものになる
ぼくのものになるのはお前しかないのだから
この地上にはほかに誰もいない
おお、緑の大地の恋人よ

ぼくは戦いに行く 緑の荒野へと
あの緑の荒野、そこはとても遠い!

トランペットが美しく鳴り響くところ
そこがぼくの家さ、緑の芝の家なんだ!


朝もやのけむる早朝、まだ眠気でぼんやりとしている娘の幻想でもあるかのようなぼんやりとした情景が紡ぎ出されて行きます。戦場に行ってしまった恋人が思いがけず帰って来たのは夢か幻かそれとも亡霊か?「ぼくの家は緑の草」というフレーズは恋人が戦死したことを仄めかすようにも思えますが、決してはっきりとそう言っているわけでもありませんのでここでは断言するのは避けておきます。
この歌はかなり角笛の原詩からはマーラーが手を入れています。古くは歌と出だしが一緒である“Unbeschreibliche Freude(書き表しようのない喜び)”という詩をもとにしてマーラーが改作したのだ、という説が主流でしたが、のちにそれとは別の“Bildchen(小肖像画)”という詩がもとで、これをほとんど変えずに抜き出したというのが定説(というより見れば分かりますが)となっています。ただ両方の詩も同じルーツを持っているのは明らかなくらい良く似ています。
即席なので誤訳はあるとは思いますが両方とも取り上げてみましょう。

  Unbeschreibliche Freude 書き表しようのない喜び

   Wer ist denn draussen und klopfet an?
   Der mich so leise wecken kann?
   Das ist der Herzallerliebste dein,
   Steh auf und laß mich zu dir ein.

    誰が外にいてノックしてるの
    私をこんなにやさしく目覚めさせられる人は誰?
    それはお前の心の恋人さ
    さあ起きてぼくをお前のところに入れてくれよ!

   Das Mädchen stand auf,und ließ ihn ein,
   Mit seinem schneeweissen Hemdelein;
   Mit seinen schneeweissen Beinen,
   Das Mädchen fing an zu weinen.

    娘は起き上がって彼を中に入れた
    雪のように白いシャツを着た彼を
    雪のように白い脚をした彼を
    娘はすすり泣き始めた

   Ach weine nicht,du Liebste mein,
   Aufs Jahr sollt du mein eigen seyn;
   Mein eigen sollt du werden,
   O Liebe auf grüner Erden.

    ああ 泣かないで、ぼくの愛する人よ、
    これから一年のうちにお前はぼくのものになるさ
    ぼくのものになるのはお前しかないのだから
    おお、緑の大地の恋人よ

   Ich wollt daß alle Felder wären Papier,
   Und alle Studenten schrieben hier;
   Sie schrieben ja hier die liebe lange Nacht,
   Sie schrieben uns beiden die Liebe doch nicht ab.

    ぼくは願ってる 野原が全部手紙になって
    学生たちが皆 そこに書くことを
    彼らがそこに一晩中かけて書いたところで
    ぼくたちの愛のことは書き尽せないのさ



  Bildchen  小肖像画

   Auf dieser Welt hab ich keine Freud,
   Ich hab einen Schatz und der ist weit,
   Er ist so weit,er ist nicht hier,
   Ach wenn ich bei mein Schätzgen wär!

    この世の中に私は何の喜びもない
    私には恋人がいる だけど彼は遠い
    彼は遠くにいて ここにはいない
    ああ 恋人の近くにいられたらなあ!

   Ich kann nicht sitzen und kann nicht stehn,
   Ich muß zu meinem Schätzgen gehn;
   Zu meinem Schatz,da muß ich gehn,
   Und sollt ich vor dem Fenster stehn.

    ぼくは座れないし 立つこともできないけど
    ぼくは恋人のもとに行かなければならない
    ぼくの愛しい人のところ そこへ行かねばならない
    そしてその窓辺に立たねばならない

   Wer ist denn draussen,wer klopfet an?
   Der mich so leis aufwecken kann;
   Es ist der Herzallerliebster dein,
   Steh auf,steh auf und laß mich rein!

    誰が外にいてノックしてるの
    私をこんなにやさしく目覚めさせられる人は誰?
    それはお前の心の恋人さ
    さあ起きて、起きてぼくをお前のところに入れてくれよ!

   Ich steh nicht auf,laß dich nicht rein,
   Bis meine Eltern zu Bette seyn;
   Wenn meine Eltern zu Bette seyn,
   So steh ich auf und laß dich rein.

    私は起きられない、あなたを中には入れられない
    私の両親が床につくまでは
    私の両親が床についたなら
    起きてあなたを入れてあげましょう

   Was soll ich hier nun länger stehn,
   Ich seh die Morgenröth aufgehn;
   Die Morgenröth,zwey helle Stern,
   Bey meinem Schatz,da wär ich gern.

    ぼくはここでずっと立ってなくちゃいけないのかい?
    ぼくには朝焼けが広がるのが見える、
    朝焼けに、二つの明るい星
    ぼくの恋人のそば、そこにいたいのさ

   Da stand sie auf und ließ ihn ein,
   Sie heißt ihn auch willkommen seyn;
   Sie reicht ihm die schneeweiße Hand,
   Da fängt sie auch zu weinen an.

    そこで彼女は起き上がって彼を中に入れ、
    歓迎のことばをかける
    彼女は彼に雪のように白い両手を差し出し
    それからすすり泣き始めた

   Wein nicht,wein nicht mein Engelein!
   Aufs Jahr sollst du mein eigen seyn;
   Mein eigen sollst du werden gewiß,
   Sonst keine es auf Erden ist.

    ああ泣かないで、ぼくの愛する人よ、
    これから一年のうちにお前はぼくのものになるさ
    ぼくのものになるのはお前しかないのだから
    この地上にはほかに誰もいない

   Ich zieh in Krieg auf grüne Haid,
   Grüne Haid die liegt von hier so weit,
   Allwo die schönen Trompeten blasen;
   Da ist mein Haus von grünem Rasen.

    ぼくは戦いに行く 緑の荒野へと
    あの緑の荒野、そこはとても遠い
    トランペットが美しく鳴り響くところ
    そこがぼくの家さ、緑の芝草の!

   Ein Bildchen laß ich mahlen mir,
   Auf meinem Herzen trag ichs hier;
   Darauf sollst du gemahlet seyn,
   Daß ich niemal vergesse dein.

    小さな肖像画をぼくに描かせてよ
    ぼくの心の中にそれを抱いていたい
    そこにお前が描かれていさえすれば
    ぼくは決して君を忘れはしないんだ

(2010.08.06)

歌詞の繰り返しを忠実になぞるにあたり、原詩では4行1節になっていた節のまとまりもマーラーの音楽に合わせました。その方が目で追いやすいと思いますし、そもそも詩の方にもマーラーの手がかなり入っていることでもありますし。この歌曲集に多くある男女の掛け合いの歌ですので、男声・女声のデュエットで歌われることもあるようですが(「そのようにして良く歌われる」という解説をしているものもありましたが)、やはりこの曲はひとりの歌手が物語を紡ぎ出すように語ることで本来の味わいが出る曲のように私には思えます。 

訳詞改訂

( 2012.08.31 藤井宏行 )


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