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Le Pont Mirabeau    
 
ミラボー橋  
    

詩: アポリネール (Guillaume Apollinaire,1880-1918) フランス
    Alcools  Le pont Mirabeau

曲: フェレ (Leo Ferre,1916-1993) フランス   歌詞言語: フランス語


Sous le pont Mirabeau coule la Seine
    Et nos amours
  Faut-il qu'il m'en souvienne
La joie venait toujours après la peine

  Vienne la nuit sonne l'heure
  Les jours s'en vont je demeure

Les mains dans les mains restons face à face
    Tandis que sous
  Le pont de nos bras passe
Des éternels regards l'onde si lasse

  Vienne la nuit sonne l'heure
  Les jours s'en vont je demeure

L'amour s'en va comme cette eau courante
    L'amour s'en va
  Comme la vie est lente
Et comme l'Espérance est violente

  Vienne la nuit sonne l'heure
  Les jours s'en vont je demeure

Passent les jours et passent les semaines
    Ni temps passé
  Ni les amours reviennent
Sous le pont Mirabeau coule la Seine

  Vienne la nuit sonne l'heure
  Les jours s'en vont je demeure


ミラボーの橋の下 流れ行くはセーヌ
     そして私たちの愛 
    私は忘れないでおこう
喜びが必ずやってくることを 苦しみのあとに

   夜よ来い 鐘よ鳴れ
   時は流れても 私はもとのまま

手に手を取り、顔と顔を合わせて
     その間にも下を
    私たちの組んだ腕の橋の下を流れ行くのは
絶え間なき眼差しに疲れ果てた水の波

   夜よ来い 鐘よ鳴れ
   時は流れても 私はもとのまま

愛は過ぎ去ってゆく まるであそこを流れる水のように
     愛は過ぎ去ってゆく
    まるで人生がゆっくり過ぎてゆくように
まるで希望が荒れ狂っているかのように

   夜よ来い 鐘よ鳴れ
   時は流れても 私はもとのまま

過ぎ去ってゆく日々 過ぎ去ってゆく週
     過ぎ去った時間も
    そして愛も戻りはしない
ミラボーの橋の下 流れゆくのはセーヌ

   夜よ来い 鐘よ鳴れ
   時は流れても 私はもとのまま


ギョーム・アポリネールの書いた詩の中で一番良く知られているのがこれかも知れません。フランスの作曲家にして歌手のレオ・フェレが書いた溜息が出るように美しいシャンソンが日本でも良く演奏されますので、特に冒頭の部分のフレーズは口ずさめる方も多いのではないでしょうか。このフェレの曲のおかげでこの詩にもこれだけのポピュラリティが得られているというのもあるのでしょう。
メロディを付けたくなるような流麗な詩でもありますことから、フランスのクラシック系の現代作曲家が書いた歌曲というのもいくつか耳にしたことはありますが、やはりあの霊感に満ちたフェレの作品ほどには心を動かされることはありませんでした。

詩は彼の詩集「アルコール」から。恋人マリー・ローランサンとの愛が破局を迎え、その2年後の1913年に出版されたこの詩集の中に収められていたものです。未練をかすかに残しながらも、しみじみと諦めへと向かって歩いてゆく主人公。流れ行くセーヌ川の水が諦めへと導いてくれているようです。だんだんと暗くなってゆく黄昏時、時を告げる鐘も鳴っています(sonne l'heure は直訳すると「時を(鐘で)鳴らして告げよ」とでもなるでしょうか)。
詩の流麗さを活かしつつ、フェレのメロディに合ったイメージをどうやって日本語に置き換えるか、たいへん思案に思案を重ねましたが、私にはこれが限界でした。例によって行同士の対応だけは崩さないよう心がけましたので、一部原詩にない言葉を補っているところもあります。
また多くある既訳、大文学者の方の手になるものも多々あるだけにそれに従わないのはかなりフランス語の素人としては勇気が要るのですが、第1節の3行目、Faut-il qu'il m'en souvienne、日本語での定訳は「思い出さなければならないのか?」とその次の行の「喜びがやってくること」を望んでいないかのような表現になっているようですが、私はここはむしろ、「苦しみのあとには必ず喜びがやってくるのだから 今は耐え抜くんだ」と自分を鼓舞しているように感じられたのです。もちろんフランス語の文法的に「しなければならないのか」としか解釈できぬのじゃ、と言われましては反論するすべは持たないのではありますが...
(ちなみにローランサンとは親交のあったという堀口大学の訳ではここは「思い出されるのは」となっておりました。またいくつかの英訳では私のような解釈をしているものもありましたので、決して私のような解釈がトンデモではないと信じてはおりますが)

先日亡くなられた石井好子さんをはじめとする日本の歌手にも愛唱されていますが、やはりこの歌はフランス語の響きで味わいたいものです。個人的にはアポリネールの気持ちに感情移入できるという点で男声の方が私は気に入っています。作曲者自身が歌っているものがその点ではやはり極めつけの味わいです。

( 2010.07.24 藤井宏行 )


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