Langsamer Walzer Brettl-Lieder |
スローワルツ ブレットルリーダー |
Seit ich so viele Weiber sah, Schlägt mir mein Herz so warm, Es summt und brummt mir hier und da, Als wie ein Bienenschwarm. Und ist ihr Feuer meinem gleich, Ihr Auge schön und klar, So schlaget wie der Hammerstreich Mein Herzchen immerdar. Bum,bum,bum. Ich wünschte tausend Weiber mir, wenn's recht den Göttern wär; da tanzt ich wie ein Murmeltier in's Kreuz und in die Quer. Das wär ein Leben auf der Welt, da wollt' ich lustig seyn, ich hüpfte wie ein Haas durch's Feld, und's Herz schlüg immerdrein. Bum,bum,bum. Wer Weiber nicht zu schätzen weiss; ist weder kalt noch warm, und liegt als wie ein Brocken Eis in eines Mädchens Arm. Da bin ich schon ein andrer Mann, ich spring' um sie herum; mein Herz klopf froh an ihrem an und machet : bum,bum bum. |
たくさん女どもを見てからずっと オレのハートは熱く打ってるのさ そいつはブンブンとうなる あっちこっちで まるでハチの群れみたいに そして女どもの燃える炎が、オレのと同じで、 瞳が美しく澄んでいるのなら、 そしたら鼓動するのさ、ハンマーを打つみたいに オレの心臓ちゃんは、ずっといつまでも ボム、ボム、ボム オレは千人の女が欲しいのさ、 神様がそれを認めて下さるのなら、 そうなったらオレは踊りまくるんだぜ、モルモットみたいに 縦横無尽にな これがこの世の人生ってのなら、 オレは面白おかしく過ごしたいね、 オレはウサギみたいに野原をぴょんぴょん跳ねて、 そしてハートは打ち続けるのさ ずっといつまでも ボム、ボム、ボム 女どもの値打ちがわからねえヤツだって、 冷たいわけでも、暖かいわけでもねえ 氷のかたまりみてえに寝そべって 一人の若い娘の腕に抱かれてるんだ、 けどな オレは全然別のタイプさ オレなら女どものまわりを跳ね回って オレのハートを彼女らのハートに陽気に響かせるのさ そして鳴らすんだ、ボム、ボム、ボムって |
「浄夜」や「グレの歌」といった初期のロマンティックな作品を除くと、現代音楽オタクのような人にしかあまり聴かれることのないシェーンベルクですので、1901年頃に彼が書いたキャバレー・ブレットルのための歌の数々はあまり聴かれることも多くなく埋もれてしまっていてとても勿体ないと思います。そのキャバレーソングの中でも一番興味深く、そして私にとって魅力的なのはこの作品。何が興味深いといって、この曲の作詞者がエマニュエル・シカネーダーであることなのです。
もちろんシェーンベルクよりも100年以上も昔に生きていたシカネーダーがシェーンベルクのために歌詞を書くなどということはあり得ません。この歌詞はもともと、「アルカディアの鏡」というジングシュピール(歌物語)の中の一節なのだそうです。
アルカディアとは、古代ギリシャの地名で、理想郷の意味があるそうです。
原研二氏の著書「シカネーダー 魔笛を書いた興行師」(平凡社)によれば、このジングシュピールのあらすじは(以下引用)
「悪い魔術師タルカレオンは凹面鏡や魔法のハーモニーを使って人間たちを誘き寄せ、奴隷にしている。こうして自然人のメターリオとギガニーは奴隷となり、バラモとフィラニーの恋人同士もタルカレオンの手に落ちようとするが、神々がそれを救ってくれるというお話。ジュピターは飛行車で、ジューノーは孔雀車で空中に登場するし、大地からはにょきにょき農民が植物のように生えてくるし、魔法の鏡の力で女性にもてまくるメターリオが舞台中を、きゃあきゃあ騒ぎながら女たちに追われるなど、シカネーダーその人の趣味にも欠けてはいない」(引用終わり)
とあります。シェーンベルクの書いたこの曲への言及はじめ、もう少し詳しくこの歌物語に触れているだけでなく、モーツアルトの「魔笛」の台本を書いたということだけしか知られていないようなこの稀代の興行師のことが愛情を持って非常に興味深く書かれた書籍。ドイツの舞台芸術に興味をお持ちの方はぜひ読んで見られると良いのではないかと思います。
ちなみにこのシングシュピールの初演は1794年、モーツアルトの「魔笛」の初演の3年後で、ご覧頂いたようにストーリーもなんとなく「魔笛」に通じるところがあります。そして作曲はモーツアルトの弟子として、未完の「レクイエム」を補筆完成させたことで知られるジュスマイヤー。残念ながらジュスマイヤーの書いた曲の方は聴くことができませんでしたので、このシェーンベルクの作品とどのくらい類似点があるのかは分かりませんでした。
音楽の方はキャバレーのBGMとして使われるだけあって、耳に心地よい流麗なもの。シェーンベルクだってこんなに洒落たポップな曲を書けるんだぞ、ということで、ご存じないかたはぜひ再認識頂くと良いのではないかと思います。
( 2010.04.25 藤井宏行 )