Below the thunders of the upper deep Op.60-2 Nocturne |
深き天の雷鳴のもと 夜想曲 |
Below the thunders of the upper deep; Far,far beneath in the abysmal sea, His ancient,dreamless,uninvaded sleep The Kraken sleepeth: faintest sunlights flee About his shadowy sides: above him swell Huge sponges of millenial growth and height; And far away into the sickly light, From many a wondrous grot and secret cell Unnumber'd and enormous polypi Winnow with giant arms the slumbering green. There hath he lain for ages and will lie Battening upon huge seaworms in his sleep, Until the latter fire shall heat the deep; Then once by men and angels to be seen, In roaring he shall rise and on the surface die. |
深き天の雷鳴のもと はるか、はるか奥底の奈落の海の中、 その過去より、夢見ることもなく、妨げられることもない眠りを クラーケンが眠っている。かすかな太陽の光も消え去るのだ 彼の影の濃い周囲では。彼の上に盛り上がるのは 巨大な海綿だ、一千年もの間 増えて高く積もっている そしてその遠い彼方の 弱々しい光の中へと たくさんの不思議な洞穴や秘密の巣穴から 数知れぬ巨大なポリプの群れが 巨大な腕でまどろむ緑の草をかき分ける そこに幾年月も彼は横たわり、これからもそうするのだ 無数の海虫の群れを眠りの中 貪り続ける 最後の業火が海底を熱くするまでずっと そしてその時 ただ一度だけ 人々や天使たちの目に触れる うなり声を上げて彼は起きあがり 海面で息絶えるのだ |
ノルウェーなど北欧の神話に出てくる運の怪物クラーケンは、巨大なタコやイカの形をしているといいます。太陽の光の届かない深い海の底で、静かに眠っている怪物の姿は幻想的です。「数知れぬ巨大なポリプ」とあるのは、その足に付いている吸盤でしょうか。眠りながらその足がうごめき、海草をかき分けているのは実に妖しい姿です。
“the latter fire”というのが何だか調べ切れませんでしたが、恐らく最後の審判のときにこの世を焼き尽くす炎なのではないかと考え、そう訳してみました。
ブリテンの夜想曲では、前の曲から切れ目なく続きますが、ここでは独奏楽器としてファゴットが新たに参加します。飄々とした味さえ感じさせるその響きは、この怪物に対する親近感さえ感じさせてくれますが、音楽としてはなかなかに重たい雰囲気です。
( 2010.03.22 藤井宏行 )