On a poet's lips I slept Op.60-1 Nocturne |
ひとりの詩人の唇の上で私は眠っていた 夜想曲 |
On a poet's lips I slept Dreaming like a love-adept In the sound his breathing kept; Nor seeks nor finds he mortal blisses, But feeds on the aeriel kisses Of shapes that haunt thought's wildernesses. He will watch from dawn to gloom The lake-reflected sun illume The yellow bees in the ivy-bloom, Nor heed nor see,what things they be; But from these create he can Forms more real than living man, Nurslings of immortality! One of these awakened me, And I sped to succour thee. |
ひとりの詩人の唇の上で私は眠っていた 恋の達人のように夢みつつ 彼の寝息が響き続ける中で 彼は死にゆく者の至福を探すことも 見出すこともなく ただ空気のような口づけだけで生きている 思考の荒れ野を脅かす姿たちの口づけで 彼は見つめるだろう 夜明けから宵闇まで 湖に反射した太陽の幻影を ツタの花の中の黄色いハチたちを 気にかけることも眺めることもしないのだ、それらがどんなものであるかなど けれどそれらのものからでも彼は生み出せるのだ 生きた人間よりもずっと真に迫った姿を 不滅なるものの秘蔵っ子たちを! その中の一人が私を目覚めさせた そして私は急いであなたを助けに来たのだ |
ブリテンの「夜想曲(ノクチュルヌ) Op.60」は、同じ作曲家の「セレナーデ Op.31」と同じように、イギリスの多彩な詩人たちの夜や眠りにまつわる詩を集めて歌曲集にしています。
興味深いのは伴奏で、弦楽合奏をベースにしているのですが、2曲目から7曲目まではそれぞれそれに加えて1つずつの独奏楽器が活躍し、最後の8曲目ですべての楽器が登場するという凝った形の作品に仕上げています。
第1曲目はP.B.シェリーの詩劇「鎖を解かれたプロメテウス」より第1幕の終わり、人間に火を与えたがためにその罰として岩山に縛り付けられたプロメテウスを慰めようとして現れてくる精霊たちの中のひとりの台詞です。石川重俊氏の手になる全訳(岩波文庫)の訳注によれば、
第一の精 不屈の精神
第二の精 自己犠牲の精神
第三の精 叡智
第四の精 詩的想像力
第五の精 人類の思想
第六の精 わびしさ、などを感じる心
をそれぞれ表しており、この詩は第四の精のものです。
私の下手な訳ゆえに内容が何やら良く分からない方も多いかと存じますので補足しますと、詩人の想像力は、まわりのありとあらゆるものを触媒として、現実よりもはるかに真に迫ったものを詩人の言葉と化して、彼の口より発することができる、ということを歌っているのですね。
音楽は弦楽のひそやかな合奏の上で、まさに眠っている詩人の姿を現しているかのように静かに響きます。まさに夜の音楽といったところでしょうか。
( 2010.03.12 藤井宏行 )