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Posthumous Coquetterie   L 39  
 
死んだあとのお洒落  
    

詩: ゴーティエ (Théophile Gautier,1811-1872) フランス
    Émaux et Camées  Coquetterie posthume

曲: ドビュッシー (Claude Achille Debussy,1862-1918) フランス   歌詞言語: フランス語


Quand je mourrai,que l'on ne mette,
Avant que de clouer mon cercueil.
Un peu de rouge à la pommette
Un peu de noir au bord de l'oeil.

Car je veux,dans ma bière close,
Comme le soir de son aveu
Rester éternellement rose
Avec du kohl sous mon oeuil bleu.

Posez-moi sans jaune immortelle,
Sans cousin de larmes brodé.
Sur mon oreiller de dentelle
De ma chevelure innondé.

Cet oreiller,dans les nuits folle,
A vu dormir nos fronts unis
Et sous le drap noir des gondolas
Compté nos baisers infinis.

Entre mes mains de cire pale,
Que la prière réunit
Tournez ce chapelet d'opale
Par le pape à Rome bènit.

Je l'égrènerai dans la couche
D'où nul encor ne s'est levé.
Sa bouche en a dit sur ma bouche
Chaque Pater et chaque Avè.

Quand je mourrai,que l'on ne mette,
Avant que de clouer mon cercueil.
Un peu de rouge à la pommette
Un peu de noir au bord de l'oeil.

私が死ぬときには、お願いです
私の柩に釘が打たれる前に
ほんの少しの紅を私の頬に
ほんの少しのシャドウを私の目の縁に入れてください

だって私はこの柩の中で
あの人が誓ってくれた夕べの時のように
永遠にみずみずしいままでいるのですから
私の青い眼のまわりに炭の黒を入れて

私を横たえてください 黄色のドライフラワーもなく
涙の刺繍をした枕もなくていい
私のレースの枕の上には
私の髪が広がっているだけで

この枕は、あの狂おしい夜に
ひとつになった私たちの頭を見つめ
ゴンドラの黒いシーツの陰で
数限りない私たちのキスを数えてきた

蒼白いロウのような私の両手
祈りのため重ねられたこの両手には
オパールのロザリオを巻き付けて
これはローマで法皇様に祝福されたもの

私はそれをまさぐるわ この寝床の中
だって誰も二度とそこから起き上がれないんですもの
あの人の口は私の口の上で唱えてくれたの
われらが父よ そして アヴェ・マリアと

私が死ぬときには、お願いです
私の柩に釘が打たれる前に
ほんの少しの紅を私の頬に
ほんの少しのシャドウを私の目の縁に入れてください

タイトルにある「コケットリー」という言葉はインテリぶりたい方にとってはおなじみのところでしょうから(例:オペラ劇評などで「タイトルロールのソプラノのコケットリーは云々...」)、あえて訳さずに「死後のコケットリー」とでもして良かったかも知れません。私もインテリぶりたいタイプですが間違った使い方をすると恥ずかしいので一応辞書を引いてみると「媚態」というような語が一番ぴったりするようですね。「お洒落」というような意味もあるようですのでもう少し抑えて「死化粧」としてもいいのですが、ちょっと怨念のニュアンスもこの日本語からは感じてしまうのでここでは「死んだあとのお洒落」ということにしました。アップショーの歌っているSonyのCDでは窪田般彌が「死後の艶姿(あですがた)」としていて実にお見事、と思ったのですが、「あですがた」とルビを振らないと読んで頂けない可能性があるのが少々気に食わないので私は私の道を行くことにしました。ドビュッシーが選ぶのは非常に珍しいテオフィル・ゴーティエの詩ですがけっこう良い出来に仕上がっていると思います。マーラーの歌曲をフランス語で歌っているような感じもしなくはありませんでしたが...
immortelleというのはムギワラギクという種類の花の名ですが、これから作るドライフラワーのことも指すようですのでここでは柩に飾るドライフラワーとしました。「不死」の意味のimmortelもかけていますね。また「ゴンドラの黒いシーツ」のゴンドラというのは辞書ではヴェニスのゴンドラのことのようですがシーツとどのような関係なのかは分かりませんでした。シーツではなくて「黒」の方にゴンドラはかかっているようにも思えますけれども。

( 2009.09.08 藤井宏行 )


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