Suleika Op.34-4 6 Gesänge |
ズライカ 6つの歌 |
Ach,um deine feuchten Schwingen, West,wie sehr ich dich beneide: Denn du kannst ihm Kunde bringen Was ich in der Trennung leide! Die Bewegung deiner Flügel Weckt im Busen stilles Sehnen; Blumen,Auen,Wald und Hügel Stehn bei deinem Hauch in Tränen. Doch dein mildes sanftes Wehen Kühlt die wunden Augenlider; Ach,für Leid müßt' ich vergehen, Hofft' ich nicht zu sehn ihn wieder. Eile denn zu meinem Lieben, Spreche sanft zu seinem Herzen; Doch vermeid' ihn zu betrüben Und verbirg ihm meine Schmerzen. Sag ihm,aber sag's bescheiden: Seine Liebe sei mein Leben, Freudiges Gefühl von beiden Wird mir seine Nähe geben. |
ああ、お前の湿りを帯びた翼 西風よ、私はお前がどんなにうらやましいことか なぜってお前はあの人に知らせを運ぶことが出来るのだから 遠く離れて私がどんなに苦しんでいるかと! お前の翼の羽ばたきは 胸の中に静かな憧れを呼び覚ます 花も、野原も、森も、丘も お前の吐息で涙をためて立ちつくす そしてお前の穏やかなやさしいそよぎは 私の痛むまぶたを冷やしてくれる ああ、悲しみのあまり私は死んでしまうの あの人に再び会うことが望めないのなら! それなら私の愛する人のところへ急いで 彼の心にそっと語りかけて でもあの人を悲しませないように 私の苦しみは隠しておいてね あの人に伝えて、でも控えめに伝えてね あの人の愛こそ私の人生なのですと そしてそのふたつの喜ばしい気持ちが 私にはあの人のそばでこそ与えられるのですと |
ゲーテ晩年の傑作として、オリエントに題材を求めた「西東詩集」、それを書くきっかけとなったのが若い人妻マリアンネとの秘めた恋であることは良く知られたことでしょうか。その中でハーテム(男性)とズライカ(女性)の詩のやりとりを描いた愛の章が「ズライカの書」です。実はこの中にあるズライカが歌ったことになっている詩のうちのいくつかはこのマリアンネがゲーテに贈った詩。そのようなことをおおっぴらにすればスキャンダルですから、この事実はマリアンネが亡くなってからしばらくするまでの間伏せられておりました。そういうわけでこの詩はメンデルスゾーンの作曲当時にはゲーテの詩だと思われておりましたから、当然メンデルスゾーンもゲーテの詩に曲を付けたつもりでいたことになります。こちらの詩は西風の歌、もうひとつの彼女の傑作「東風」が恋しい人のもとから吹いてくる風ならば、その反対方向に吹く風は自分のところから恋人へと向かっていく風。東風の恋人からの便りが届く喜びとは対照的に、こちらは愛する人へ自分のたまらない想いを伝えようというセンチメンタルな歌です。メンデルスゾーンの曲も少々悲しげに、物思いにふけっている趣です。最後は曲想も明るくなり穏やかに終わりますが。
マリアンネはまだ存命中に、スウェーデンの歌姫イェニー・リンドの歌うこの「西風」の詩につけた歌を聴いたことがあるのだそうです。リンドといえばこちらも実らぬ憧れをメンデルスゾーンに寄せた女性として知られていますので、このとき歌った「西風」の歌はおそらくこのメンデルスゾーンのものではないでしょうか。彼女たちがどんな思いでこの歌を歌い、そして聴いたのか、歴史の彼方のお話ではありますが興味をそそられます。
( 2009.04.01 藤井宏行 )