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Byl staryj korol’    
 
昔年老いた王様がいた  
    

詩: プレシチェーエフ (Aleksey Nikolayevich Pleshcheyev,1825-1893) ロシア
      Es war ein alter König 原詩: Heinrich Heine ハイネ,Neue Gedichte - Neuer Frühling(新詩集-新しい春)

曲: カリンニコフ (Vasily Kalinnikov,1866-1901) ロシア   歌詞言語: ロシア語


Byl staryj korol’... (Etu pesnju
Ja,drugi,slykhal v starinu.)
Sedoj i s ostyloj dushoju,
On vzjal moloduju zhenu.

Byl pazh s golubymi glazami,
Ispolnen otvagi i sil;
On shelkovyj shlejf korolevy
Prekrasnoj i junoj nosil.

Dokonchit’ li staruju pesnju?
Zvuchit tak unylo ona...
Drug druga oni poljubili,
I smert’ im byla suzhdena.

昔年老いた王様がいた?この歌は
そう、昔よく聞いたものだ
白髪で凍った魂の王は
ひとりの若い妻をめとった

昔碧い瞳の王の伝令がいた
勇気に満ち、力強い若者だった
彼は王妃のドレスの裾を持つ従者となったが
若く 美しかった

この古い歌の終わりがどうなるかって?
とても悲しいものさ
若い二人は互いに恋に落ち
そして死ぬ運命を受け入れた

34歳の若さで貧困と病のうちに亡くなった経歴が琴線をくすぐるのか、はたまたボロディンとチャイコフスキーの美質を足して2で割ったような美しい交響曲第1番の録音が最近増えているせいか、日本のロシア音楽ファンにも不思議と人気の高いカリンニコフにも非常に数は少ないですが歌曲の作品があります。
ロシア歌曲自体が、これはという人の作品でもなかなか聴けないような不遇状態にあった中、最近はHyperionレーベルでのサヴェンコ(Bar)や、無くなってしまって残念ですがTritonレーベルの様々なロシア歌曲集の頑張りでずいぶん色々と聴けるようになりました。そんなロシア歌曲録音伝道者の一角、テノールのラーリン/ピアノのベコヴァのコンビ(Chandos)は、「西欧詩人の詩によるロシア歌曲」というCDをすでに第3集まで出していますが、その中の第2集と3集に1曲ずつ、このヴァシリー・カリンニコフの知られざる歌曲が入っていたのは驚きでした。
しかもロシア語の歌曲ではなくドイツ語です。ここでは第3集の方に収録されている方の曲を扱っていますが、CDのライナーでは詩はハイネ?プレシチェーエフとなっていて、恐らくこのプレシチェーエフという人はチャイコフスキーやラフマニノフの歌曲で良く名前を見掛ける人だと思うのですが、この人がハイネの詩を扱ったのならロシア語になっているはず。全部調べたわけではありませんがハイネの詩の中にこんな内容の詩もなさそうなので謎の一品です。

曲は年老いた王を表すかのように暗く重々しく始まりますが、第2節で若い伝令が現れるところで夢見るように美しい旋律へと急変します。しかしその美しさも長くは続かず、第3節ではまた暗く沈んだ音楽へと戻ってしまいます。愛する2人の死を悼むかのように一瞬だけ昂揚するものの、最後ははかなく終わってしまいます。
ドイツ語で歌われていることを感じさせないような典型的なロシア情緒溢れる曲、歌っているラーリンもドラマティックなテナーなので、この秘めた熱情に満ちた歌にはピッタリです。
第2集に収められた「雪のように白いうなじの恋人」ともども、この知られざるロシアのロマンティストの小品を味わってみてください。 (2003.11.22)

その後めでたくハイネの原詩が見つかり、またこのカリンニコフの歌はロシア語がオリジナルであることが判明しました。ラーリンの歌った録音が、チャイコフスキーのOp.65のフランス語の歌曲集のようにはじめから原語に付けられた歌曲ばかりでなく、もともとロシア語の訳詞に付けられていたものまでも原語でむりやり歌っていた(しかも原詩だとイントネーションが合わなかったりしますので、わざわざ新たな訳で歌っているものがほとんどです)のが謎を生んだ原因でした。
ということでまだカリンニコフオリジナルのロシア語詞に付けた歌は耳にできてはいないのですが、Emily Ezustのサイトでロシア語詞もアップされておりましたので転載させて頂き、訳をつけました。あわせてハイネの原詩の方も下にアップしておきます。
(ラーリンの歌っているものとは違っておりますが。この詩に曲を付けている人もコルネリアスやグリーグ、ヴォルフをはじめとしてけっこうな数いるようです)

  Es war ein alter König,
  sein Herz war schwer,sein Haupt war grau;
  der arme,alte König,
  er nahm eine junge Frau.

  Es war ein schöner Page,
  blond war sein Haupt,leicht war sein Sinn;
  er trug die seid’ne Schleppe
  der jungen Königin.

  Kennst du das alte Liedchen?
  Es klingt so süß,es klingt so trüb!
  Sie mußten beide sterben,
  sie hatten sich viel zu lieb

  昔年老いた王がいた
  彼の心は重く、頭は真っ白だった
  この哀れな、年老いた王は
  ひとりの若い妻を娶った

  昔美しい伝令がいた
  髪はブロンドで、心は軽やか
  彼の役目は絹のすそを持つこと
  この若い王妃の

  この古い歌がどうなったかお分かりか?
  とても甘くも響き、とても悲しくも響く
  彼らは死なねばならなかったのだ
  お互いをあまりに愛し過ぎたがゆえに

( 2008.08.20 藤井宏行 )


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