Frühlingsfeier Op.56-5 TrV 220 Sechs Lieder |
春の祭典 6つの歌曲 |
Das ist des Frühlings traurige Lust! Die blühenden Mädchen,die wilde Schar, Sie stürmen dahin mit flatterndem Haar Und Jammergeheul und entblößter Brust: “Adonis! Adonis!” Es sinkt die Nacht bei Fackelschein Sie suchen hin und her im Wald, Der angstverwirret widerhallt Vom Weinen und Lachen und Schluchzen und Schreien: “Adonis! Adonis!” Das wunderschöne Jünglingsbild, Es liegt am Boden blaß und tot, Das Blut färbt alle Blumen rot, Und Klagelaut die Luft erfüllt, “Adonis! Adonis!” |
これは春の悲しき喜びだ! 花咲く乙女たちは、荒れ狂う群れをなして 髪振り乱して押し寄せてくる 嘆きの叫びをあげ 胸をさらけ出して 「アドーニス、アドーニス」と 夜がふけて たいまつに照らされ 彼女たちは森の中 あちこちを探し回る 森は不安でかき乱されたよぅにこだまする 泣き声や笑い声 すすり泣きや叫びの声が 「アドーニス、アドーニス」と 驚嘆するほど美しい若者が 大地に血を流し 死んで横たわっている 流れる血は花たちを真っ赤に染めている そして嘆きの叫びは風に乗って漂う 「アドーニス、アドーニス」と |
「春の祭」というタイトルの方が一般的でしょうか。しかしこのふつふつとたぎる不穏な響きの世界は、私にはあのストラヴィンスキーの激しい「春の祭典」を連想させずには置かれませんでしたのでそれと同じタイトルにしました。アドーニスといえばギリシャ神話、女神アプロディテやペルセポネに愛された美少年ですが、彼女たちの彼をめぐる争いの中、アプロディテの恋人の軍神アレスに森の中で殺されてしまいます。その死を悼む女たちの群れは上半身裸で泣き叫びなから走ってゆく...神話の中の世界とは言いながら想像するだにエロティックな光景です。多彩な詩を書いたハイネにおいても、これはかなり異色の作品ではないでしょうか。管弦楽編曲の伴奏で演奏されることもよくありますが、ちょうど同時期に書かれたオペラ「サロメ」を思わせるような激しい色彩感で面白いです。
( 2008.10.01 藤井宏行 )