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Romans Niny    
  the drama “Maskarad”
ニーナの歌  
     仮面舞踏会

詩: レールモントフ (Mikhail Yur'yevich Lermontov,1814-1841) ロシア
    Маскарад (1835-6)  Когда печаль слезой невольной

曲: ハチャトゥリアン (Aram Khatchaturian,1903-1978) アルメニア   歌詞言語: ロシア語


Kogda pechal’ slezoj nevol’noj
Promchitsja po glazam tvoim,
Mne videt’ i ponjat’ ne bol’no,
Chto ty neschastliva s drugim.

Nezrimyj cherv’ nezrimo glozhet
Zhizn’ bezzashchitnuju tvoju,
I chto zh? JA rad, chto on ne mozhet
Tebja ljubit’, kak ja ljublju.

No esli schastie sluchajno
Blesnet v luchakh tvoikh ochej,
Togda ja muchus’ gor’ko, tajno,
I tselyj ad v grudi moej.

悲しみの涙が思いがけなくも
あなたの目からこぼれ落ちても
私の心は痛みはしない
あなたは別の人と一緒でも不幸なのだから

見えない虫がひそかに食い荒らす
あなたの大切な人生を
でもそれが何?私は嬉しい、あの人が
私ほどにはあなたを愛していないから

でももしも、幸せの光が突然
あなたの瞳に輝いたのなら
その時私はひそかに苦しむでしょう
胸の中に地獄を感じながら


この人もそこそこ歌曲は残しているようなのですが、なかなか耳にする機会がありません。
唯一私が耳にしたのは、ニコライ・ゲッダ(テノール)が1961年のザルツブルグ音楽祭で歌ったライブ録音の中のこの曲です(EMI)。この曲、有名な劇伴奏音楽「仮面舞踏会」の中の1曲なのだそうで、バレエ音楽「ガイーヌ」などで聴かせてくれるハチャトゥリアンの出身のアルメニアはじめとするコーカサス地方の民族情緒というよりは、この「仮面舞踏会」で聴けるハチャメチャなワルツやマズルカ、ギャロップのように西洋音楽の戯画化が顕著な作品と言えましょう。なおこの劇音楽から5曲を編んで作られたオーケストラ組曲の第4曲「ロマンス」が実はこの曲ですので、旋律だけなら比較的容易に耳にすることができます。(コンドラシン-RCAビクター管の演奏など)
この作品は、決闘で若い命を散らしたロシアの浪漫詩人レールモントフが、帝政ロシア貴族社会の虚偽と腐敗を痛烈に風刺したものだそうです。
劇中で、主人公のアルベーニンが仮面舞踏会で腕輪をなくした妻のニーナに浮気の疑いを抱き、ついには毒殺してしまうという、シェークスピアの「オセロ」のような筋のお話、このニーナの歌はオセロで言えば「柳の歌」にあたる、失われた愛情を悲しみ、心の苦悩を吐露する歌でしょうか。厚ぼったいピアノ伴奏の上で、思い切りセンチメンタルなシャンソン調のメロディーが熱唱されますが、クラシックというよりはポピュラーソング、いやこのテイストはド演歌でしょう。最後もガーっと絶叫して終わります。
(ロシア版「天城越え」by石川さゆり、といった雰囲気。もともと女の人の歌になると思うのですが男性のゲッダが歌うところなども演歌っぽくてヨイ)
ニコライ・ゲッダといえば、独仏伊露なんでもござれの才人ですが、リサイタルでデュパルクやプーランクのフランス歌曲のあとにこんなのを持ってくるところが憎い演出で、聴衆も大喝采です。

「仮面舞踏会」のオーケストラ組曲は、キッチュなこれもド演歌風のワルツや、とてもコミカルなギャロップなど、およそ悲劇的な雰囲気を感じさせないものだったので、よもやそんなに重い話であるとは思ってもみませんでした。
ちなみにこのレールモントフ作の仮面舞踏会の劇伴奏音楽、グラズノフも作曲しており、同じ詩に付けたニーナの歌もあるようです。これはぜひ聞き比べてみたいものです。いやそれよりもハチャトゥリアンの劇伴でこの戯曲を見てみるのが先か???

もうひとつ余談ですが、ハチャトゥリアンには管弦楽による「レールモントフ組曲」という作品もあります(チェクナヴォリアン/アルメニアPOの録音あり)。余程好きな作家だったのでしょうか。レールモントフがコーカサスの地で若い命を散らしていることも関係あるのかも知れません。
もっとも、プーシキンの後を継ぐ大詩人として、ロシア語圏では今に至るまで人気の高い作家ではあるのですが。

(藤井宏行)2000.2.7 (2004.2.5改訂)

これもロシア語の歌詞をもう一度読み直して訳を再度改訂しました。文法の勉強を真面目にやっていないので断言はできないのですが、この歌はニーナが歌っているのではなくて、アルベーニンが嫉妬に狂って歌っている歌のように思えてきました。そこで非常にずるいやり方ですが、訳はどちらとも取れるようにしておきました。
(2008.08.01)

草鹿外吉の訳した戯曲を読むことができ、だいぶ疑問が解けました。この歌、ニーナが歌っているのですが、それは仮面舞踏会の余興としてで、訳文によれば男言葉で歌われております。つまり本来男心を歌った歌を女性が歌っているということなのですね。ちなみにこの直後にニーナは毒殺されますので、この歌自身が知らず知らずのうちに主人公アルベーニンの心を代弁しているかのような運命の皮肉。実ににくい使い方だなと感心させられました。
ということで男心を女性が歌っていた、というのが真相でしたが、これはこれで演歌の世界でもありますね。

( 2010.10.01 藤井宏行 )


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