Chi i bei di m’adduce ancora |
誰が私に再びあの美しき日々を戻してくれるのか |
Chi i bei di m’adduce ancora, I bei di del primo amore? Chi m’adduce solo un’ora Di quel tempo caro al cor? Tutta sol piango i miei guai Ecco il ben che più non torna! Ah,i bei dì chi mi ritorna, Chi quel tempo caro al cor? Ah! chi ritorna Ah! quel tempo caro al cor? |
誰が私に再びあの美しき日々を戻してくれるのか 初めて恋をしたあの美しき日々を? 誰が私に再び 一時だけでも戻してくれるのか 今も心に残るあの時間を? ただ独り私は我が身の不幸を嘆く もう二度と戻ってこない喜びを ああ、あの素晴らしい日々を誰が私に戻してくれるのか 今も心に残るあの時間を? ああ!誰が戻してくれるのか ああ!今も心に残るあの時間を? |
ヴェルディとゲーテ、という取り合わせは非常に面白いものがありませんでしょうか。私もそれを思って取り上げてみることにしました。もちろんイタリアの作曲家はドイツ語の詞なんぞに作曲することはほとんどあり得ませんから、この曲もルイジ・バレストラ(Luigi Balestra)という人のイタリア語訳に付けています。ただ内容的には元のドイツ語の詞と大きく違っているということはなさそうな感じですけれども。
この原詩は以前ゲーテとも親交のあった作曲家フリードリヒ・ツェルターが曲をつけたものをご紹介したときに取り上げております。1785年の作品といいますからまだゲーテも詩人は三十半ばの頃。ちょうどこんなことを思うお年頃といったところでしょうか。Elser Verlost(はじめてなくしたもの)という大変しゃれたタイトルと、悲しい詩をあえて明るくしみじみと歌わせているスタイルが、ドイツ語の響きも良く溶け合ってなかなかの傑作であったと記憶しているのですが、こちらのヴェルディはまた違った意味で印象深いものでした。
この濃密で熱いカンターヴィレは、まんまオペラのワンシーンです。まるでアルフレードがなくしてしまったヴィオレッタとの愛の日々を嘆いているかのような味わいです。前半のレシタティーヴォ風のところが「ああ、あの素晴らしい日々を」のところから気持ちのいいくらい美しいアリアになって、そして堂々と終わるところなどやはり痺れます。「詩の叙述していることと音楽が全然シンクロしてないじゃないか」と責められれば「ええそうですね」としか返しようはないのではありますが、この音楽は癖になりそうなくらいに魅惑的です。
( 2008.09.09 藤井宏行 )