TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ


Der Strom   D 565  
 
流れ  
    

詩: 不詳 (Unknown,-) 
      

曲: シューベルト (Franz Peter Schubert,1797-1828) オーストリア   歌詞言語: ドイツ語


Mein Leben wälzt sich murrend fort,
Es steigt und fällt in krausen Wogen,
Hier bäumt es sich,jagt nieder dort
In wilden Zügen,hohen Bogen.

Das stille Tal,das grüne Feld
Durchrauscht es nun mit leisem Beben,
Sich Ruh ersehnend,ruh'gen Welt,
Ergötzt es sich am ruh'gen Leben.

Doch nimmer findend,was es sucht,
Und immer sehnend tost es weiter,
Unmutig rollt's auf steter Flucht,
Wird nimmer froh,wird nimmer heiter.

私の人生は不平を漏らしながら転がり進む、
さざ波を立てて上ったり落ちたりしつつ。
ここで立ち止まるかと思えば、あちらで下へ駆り立てる、
荒々しい動きで、高い弧を描いて。

静かな谷や緑の野原を
今、かすかに震えながらざわめき抜ける。
憩いを望み、穏やかな世界を望みながら、
穏やかな人生を楽しんでいる。

だが、求めるものは決して見出せず、
常に望みを抱きながら轟音を立ててさらに流れる。
不機嫌に絶えず逃避しつつ転げまわり、
決して陽気にも快活にもなることはない。


1983年横浜でのF=ディースカウ&ヘルのシューベルトリサイタルではじめて聴き、惹き付けられた曲。
冒頭から細かい分散和音で激しく上下に動き回るピアノパートにすっかり魅せられて、ペータース版の第7巻を取り寄せたものだった。
当時F=ディースカウ以外の歌手でも聴いてみようと探してみてもほとんど録音がなかったと思うが(クルト・モルによるこの曲の演奏が発売された時は喜んで購入したものだった)、F=ディースカウ自身はムーア、リヒテル、ブリテン、ヘルなどと繰り返し録音しており、愛着も深かったのだろう。HyperionのG.ジョンソンの全集ではバリトンのスティーヴン・ヴァーコウが柔らかい声で歌っていた。

この曲の草稿には「シュタードラー氏の想い出のために」と記されているそうで、1817年の夏にシューベルトの神学校時代の友人アルベルト・シュタードラー(Albert Stadler: 1794.4.4,Steyr,Austria - 1888.12.5,Wien)がヴィーンを離れる際に作曲された。
そのため、このテキストがかつてはシュタードラーの手によるものとされてきたが、シューベルト自身による詩という説もあり、はっきりしていない。
人生という荒波にもまれて苦しむというかなりネガティブな内容だが、シューベルトの畳み掛けるように押し寄せる音の波で見事に表現されている。
F=ディースカウもその著書「シューベルトの歌曲をたどって」(原田茂生訳、1976年白水社)の中で、「最初のアウフタクトが始まるやいなや聴き手を激しい興奮にひきずり込む」と述べているのも納得できる知られざる名作である。
ニ短調、4分の2拍子、標示は「速く(Schnell)」。
歌声部の最高音は2点変ホ音、最低音はイ音で、音域は12度の広さ。
1オクターヴの跳躍などもあり、歌手にとってはてごわい曲かもしれない。

F=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau)&ヘル(Hartmut Höll)が1991年5月にニュルンベルクのコンサートで演奏した際のライヴ映像が国内盤DVDでも発売されている(WARNER MUSIC VISION: WPBS-90242)。
声は衰えたが、さすがに手の内に入った歌唱で、詩の内容を全身で表現している。
ヘルのピアノも若々しく、すでに後年の個性の片鱗が聞かれるようだ。

( 2008.09.01 フランツ・ペーター )


TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ