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Liebhaber in allen Gestalten   D 558  
 
あらゆる姿の恋人  
    

詩: ゲーテ (Johann Wolfgang von Goethe,1749-1832) ドイツ
      Liebhaber in allen Gestalten (1810)

曲: シューベルト (Franz Peter Schubert,1797-1828) オーストリア   歌詞言語: ドイツ語


Ich wollt',ich wär' ein Fisch,
So hurtig und frisch;
Und kämst du zu angeln,
Ich würde nicht mangeln.
Ich wollt',ich wär' ein Fisch,
So hurtig und frisch;

Ich wollt',ich wär' ein Pferd,
Da wär' ich dir wert.
Oh,wär' ich ein Wagen,
Bequem dich zu tragen.
Ich wollt',ich wär' ein Pferd,
Da wär' ich dir wert.

Ich wollt',ich wäre Gold,
Dir immer im Sold;
Und tätst du was kaufen,
Käm ich gelaufen.
Ich wollt',ich wäre Gold,
Dir immer im Sold.

Doch bin ich,wie ich bin,
Und nimm mich nur hin!
Willst beßre besitzen,
So laß dir sie schnitzen.
Ich bin nun,wie ich bin;
So nimm mich nur hin!

ぼくが魚だったらなぁ、
すばしっこくて、生きのいい魚だったら。
それできみが釣りに来てくれたら
ぼくはなんの不足もないってわけ。
ぼくが魚だったらなぁ、
すばしっこくて、生きのいい魚だったら。

ぼくが馬だったら、
きみにふさわしくなれるだろうになぁ。
おお、ぼくが馬車だったら、
きみを気持ちよく乗せてあげられるだろうになぁ。
ぼくが馬だったら、
きみにふさわしくなれるだろうになぁ。

ぼくがお金だったらなぁ、
いつもきみに雇ってもらっているお金だったら。
それできみが何か買おうとするときには
ぼくが駆けつけるってわけ。
ぼくがお金だったらなぁ、
いつもきみに雇ってもらっているお金だったら。

でも結局ぼくはぼく、
こんなぼくをただ受け入れてよ!
もっといい男がほしいなら
きみのためにこしらえさせなよ。
ぼくは結局ぼくなんだ、
こんなぼくをただ受け入れてよ!


このユーモラスで愛らしい曲はシューベルトが1817年5月に作曲した(パリ・コンセルヴァトワールにある自筆譜に日付が記されているという)。
ゲーテの原詩は1810年夏に書かれ、全9節からなる。
シューベルトは原詩の最初の3節と最終節の計4節の有節歌曲として作曲したそうだが、はじめて出版されたペータース版7巻では第2節が印刷されなかったため、現在でも第1、3、9節の計3節が歌われることが多い。

ぼくが魚なら、馬なら、お金ならと、自分の姿を変えて恋人に都合のいい男になる妄想を次々に展開するが、結局自分は自分、このままのぼくを受け入れておくれと締めくくる。
無理をしていいところを見せたい気持ちがふくらむが、化けの皮はすぐにはがれる。
それならば、素の自分で勝負しようじゃないかという、現代を生きる我々にも立派に通用する真理ではないだろうか。

シューベルトの曲は「いくぶん生き生きと(Etwas lebhaft)」という指示のもと、4小節の軽快で小粋な前奏に導かれて、歌が続く(4分の2拍子、イ長調)。
歌とピアノの掛け合いがなんとも楽しく、あたかもじゃれあっているかのようである。

演奏ではやはりプライ(Hermann Prey)&エンゲル(Karl Engel)がこの曲のイメージによく合っているだろう(PHILIPS: 1971年3月録音)。
若々しく軽快な演奏である。
女声ではアーメリング(Elly Ameling)&ボールドウィン(Dalton Baldwin)がさすがに隙のないアンサンブルでユーモラスに表現していて魅力的だ(PHILIPS: 1972年6月録音)。
いずれの演奏も第2節は省略されている。

F=ディースカウのシューベルト全集でこの曲を探していて、彼がこの曲を歌っていないことにはじめて気が付いた。
彼の著書「シューベルトの歌曲をたどって」(白水社)でも全く記載されていない。
明らかに男声用の内容であるし、曲の価値も問題ない。
となると、F=ディースカウ自身とこの曲の相性の問題だろうか。

( 2008.08.28 フランツ・ペーター )


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