An Schwager Kronos Op.19-1 D 369 |
馭者クロノスに |
Spude dich,Kronos! Fort den rasselnden Trott! Bergab gleitet der Weg! Ekles Schwindeln zögert Mir vor die Stirne dein Zaudern. Frisch,holpert es gleich, Über Stock und Steine den Trott Rasch ins Leben hinein Nun schon wieder Den eratmenden Schritt, Mühsam Berg hinauf! Auf denn,nicht träge denn, Strebend und hoffend hinan! Weit,hoch,herrlich Rings den Blick ins Leben hinein, Vom Gebirg zum Gebirg Schwebet der ewige Geist, Ewigen Lebens ahndevoll. Seitwärts des Überdachs Schatten Zieht dich an Und ein Frischung verheißender Blick Auf der Schwelle des Mädchens da. Labe dich!― Mir auch,Mädchen, Diesen schäumenden Trank, Diesen frischen Gesundheitsblick! Ab denn,rascher hinab! Sieh,die Sonne sinkt! Eh sie sinkt,eh mich Greisen Ergreift im Moore Nebelduft, Entzahnte Kiefer schnattern Und das schlotternde Gebein. Trunknen vom letzten Strahl Reiß mich,ein Feuermeer Mir im schäumenden Aug, Mich geblendeten Taumelnden In der Hölle nächtliches Tor! Töne,Schwager,ins Horn, Raßle den schallenden Trab, Daß der Orkus vernehme: wir kommen, Daß gleich an der Tür Der Wirt uns freundlich empfange. 1) |
急げ クロノス ガタガタ早足で前進だ 道は下り お前がぐずぐずしていると 俺は目眩がしてくるよ 元気よく 揺れてもいい 切り株や石の上を超え 早足で 人生にまっしぐら またしても 息を切らしての歩み やっとのことで山の上 さあ 休まずにがんばって 何かいいこと期待して行こう 広く 高く 素晴らしい眺め ぐるりと人生を見渡せる 山から山へ 永遠の魂が漂っている 永遠の命の予感に満ちて 庇(ひさし)の陰が傍らに おまえを引き寄せる 清々しさを約束してくれる眼差しが 少女のいる敷居の上に 元気を出せ― 俺にも 少女よ この泡立つ飲み物を 溌剌とした元気な眼差しを さあ下りだ もっと速く 見よ 太陽が沈んでいく 陽が沈む前に 俺を 老人を 湿原で霧霞が襲う前に 歯が抜けた顎ががたつき からだが震える前に 最後の光で酔った者を 連れ去ってくれ 火の海が 俺の泡立つ眼に映る よろめく俺を 冥府の夜の門へ 馭者よ 角笛を吹き鳴らせ 速足でガチャガチャ音をたてろ 俺たちが来たことに オルクスが気づくよう 丁度門の前で 主(あるじ)が俺たちを愛想良く迎えるよう |
この詩には、ゲーテ自身の手で、「1774年10月10日、郵便馬車で」と書かれています。ゲーテは、彼のもとに2週間滞在したクロプシュトクFriedrich Gottlieb Klopstock (1724-1803) がカールスルーエに帰る際、ほとんど全行程送り、ひとりで戻ってきました2)。その郵便馬車の中で書かれたようです。クロプシュトクは、フライエ リュトメン(自由韻律)で知られる詩人で、「馭者クロノス」も自由韻律で作られています。すなわち脚韻を踏まず、各節の長さもさまざまで、規則性や法則性が自由です。詩集によって綴りや詩句等に違いがありますが、もともと方言が多いため、?ich” を「俺」と訳し、全体的に「俺」に合わせてみました。最後の3節において、老人から黄泉の世界までが描かれていることから分かるように、この詩においては胎内から死後の世界までが表現されています。
シューベルトは、このリートを2度ゲーテに送っています。1度目は1816年、ゲーテへの献呈により最初の出版を行いたいという願いと、友人たちの協力により、2冊のゲーテ歌曲を含む詩人別8冊の清書譜が用意されました。恥ずかしがり屋のシューベルトに代わって、9歳年上の良き友人シュパウン Joseph von Spaun (1788-1865) が献辞を添え3)、最初の1冊をゲーテに送ったのですが、返事はなく、楽譜だけが送り返されました。シュパウンのおじ Franz Serephicus v. Spaun (1754年ウィーン生まれ)が「悪意あるゲーテ-敵対者」だったことが原因と思われます4)。それら18曲5)のうち現存する楽譜は16曲で、最初に掲載された楽譜は紛失してしまったのですが、デュル Walther Dürrによれば、それは「馭者クロノスに」ということです6)。
2度目は1825年6月はじめ。シューベルトは「馭者クロノス」、「ミニヨンに」An Mignon D161(1815)、「ガニュメート」Ganymed D 544 (1817)に金で印字された特別豪華な版を2冊用意し、1冊をゲーテに献呈、もう1冊をヴァイマールの図書館に寄贈しました。1825年6月16日のゲーテの日記にも、献呈の記録が記されています。この3曲は、検閲により出版許可が2年ほど待たされていたのですが、おそらく遅延の理由に詩人の許可が必要と言われ、ゲーテへの献呈に至ったと思われます。検閲当局はゲーテの許可確認を取らなかったようで、1825年6月、共に作品19として出版されました。6月6日の「ウィーン新聞」に記事が掲載され、そこには「詩人に大きな尊敬を持って捧げられた」と書かれています7)。シューベルトがゲーテに宛てた手紙は以下のとおりです。
閣下
閣下の詩による作曲の献呈により、閣下に対する限りない尊敬を表すことができましたら、私のような取るに足らぬものへ、いくらかでも注意を払ってくださるなら、私の生涯最高の出来事として、この望みの大成果を讃えましょう。
この上ない尊敬をこめて
閣下の
従順な僕である
フランツ・シューベルト
Euer Exzellenz!
Wenn es mir gelingen sollte,durch die Widmung dieser Composition Ihrer Gedichte meine unbegräzte Verehrung gegen E. Exzellenz an den Tag legen zu können,und vielleicht einige Beachtung für meine Unbedeutenheit zu gewinnen,so würde ich den günstigen Erfolg dieses Wunsches als das schönste Ereigniß meines Lebens preisen.
Mit größter Hochachtung
Ihr
Ergebenster Diener
Franz Schubert 8)
1825年6月16日、ゲーテの日記は次のように書かれています。
ベルリンのフェーリクスから、四重奏曲が数曲送られてきた。ウィーンのシューベルトから、私の詩による歌曲、数曲が送られてきた。
Sendung von Felix von Berlin,Quartette. Sendung von Schubert aus Wien,von meinen Liedern Compositionen. 9)
シューベルトの死後、友人マイアーホーファー Johann Mayrhofer (1787-1836) は「シューベルトの思い出」で、「馭者クロノス」第3節の感情と、詩と音楽への愛が、シューベルトと彼との結びつきをより内面的なものにしたと回想しています10)。シューベルトの音楽はまさに、「広く 高く 素晴らしい」ものと言えるでしょう。
註
1) Franz Schubert. Neue Ausgabe sämtlicher Werke. Hrsg. von der Internationalen Schubert-Gesellschaft. Kassel,Basel,Tours,London (Bärenreiter-Verlag) 1967- . Serie IV. Lieder: Vorgelegt von Walther Dürr. Bd. 1 Teil a 1970 ,S.121-128.
2) Vgl. Goethe,Johann Wolfgang: Gedichte. Kommentiert von Erich Trunz. München (C.H.Beck) 1974,S.475.
3) Spaun,Josef von: An Goethe. In: Schubert. Die Dokumente seines Lebens. Gesammelt und erläutert von Otto Erich Deutsch. mit einem Geleitwort von Peter Gülke. Erweiterter Nachdruck der 2. Auflage Leipzig 1980 (1. Auflage 1964) . Wiesbaden ( Breitkopf & Härtel.) 1996(以下DSD),S.40f.
4) Vgl. Tschense,Astrid: Goethe-Gedichte in Schuberts Vertonungen. Komposition als Textinterpretation. Hamburg (Bockel Verlag) 2004、S.49.
5)「馭者クロノス」(紛失)、「狩人の夜の歌」Jägers Abendlied D368、有節歌曲(紛失)、「トゥーレの王」Der König in Thule D 367、「海の静寂」 Meeres Stille D216、「羊飼いの嘆きの歌」Schäfers Klagelied D121、「糸紡ぎ」Die Spinnerin D 247、「野薔薇」Heidenröslein D257、「憂いの愉楽」Wonne der Wehmut D260、「旅人の夜の歌」Wandrers Nachtlied (Der du von dem Himmel bist) D 224、「最初の喪失」Erster Verlust D226、「漁師」Der Fischer D 225、「ミニヨンに」An Mignon D 161、「亡霊の挨拶」 Geistes-Gruß D 142、「恋人の傍に」Nähe des Geliebten D 162、「糸を紡ぐグレートヒェン」Gretchen am Spinnrade D 118、「たゆみなき愛」 Rastlose Liebe D 138、「魔王」Erlkönig D 328.
6) Vgl. Dürr,Walther/ Feil,Arnold: Franz Schubert. Musikführer. Leipzig (Reclam Verlag Leipzig) 2002,S.59.
7) Aus der amtlichen ?Wiener Zeitung” vom 6. Juni 1825. DSD287f.
8) DSD288.
9) Felixとは、当時16歳のメンデルスゾーンFelix Mendelssohn Bartholdy (1809-1847)のこと。引用は Goethe,Johann Wolfgang von: Goethes Werke. Weimarer Ausgabe in 143 Bänden. Bd. 87 (WAIII10). Hrsg. im Auftrage der Großherzogin Sophie von Sachsen. Fotomechanischer Nachdruck der im Verlag Hermann Böhlaus Nachfolger,Weimar,1887-1919 erschienenen. München (Deutscher Taschenbuch Verlag GmbH &Co.KG) 1987,68f. なおゲーテは、6月18日にメンデルスゾーンに宛てて、愛情をこめた手紙を書いており、そこには「とても満足しているよ」と書かれています。Ebd. Bd.132 (WA IV.39) ,S.231.
10) Mayrhofer,Johann: Erinnerungen an Franz Schubert (Neues Archiv für Geschichte,Staatenkunde,Literatur und Kunst,Wien,23. Februar 1829) . In: Schubert. Die Erinnerungen seiner Freunde. Gesammelt und hrsg. von Otto Erich Deutsch. 4. Auflage (1. Auflage 1957) Leipzig 1983,S.18.
(訳、記述 2003.2.13. 改訳、追記2008.8.14 渡辺美奈子)
( 2008.08.14 渡辺美奈子 )