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Fahrt zum Hades   D 526  
 
ハデスへの旅  
    

詩: マイアホーファー (Johann Baptist Mayrhofer,1787-1836) オーストリア
      Fahrt zum Hades

曲: シューベルト (Franz Peter Schubert,1797-1828) オーストリア   歌詞言語: ドイツ語


Der Nachen dröhnt,Zypressen flüstern,
Horch,Geister reden schaurig drein,
Bald werd ich am Gestad,dem düstern,
Weit von der schönen Erde sein.

Da leuchten Sonne nicht,noch Sterne,
Da tönt kein Lied,da ist kein Freund;
Empfang die letzte Träne,o Ferne,
Die dieses müde Auge weint.

Schon schau ich die blassen Danaiden,
Den fluchbeladnen Tantalus,
Es murmelt todesschwangern Frieden,
Vergessenheit,dein alter Fluß.

Vergessen nenn ich zwiefach Sterben.
Was ich mit höchster Kraft gewann,
Verlieren,wieder es erwerben!
Wann enden diese Qualen,Wann?

小舟がどよめき 糸杉がさらさら音を立てる
聞け 亡霊たちが不気味に 中で語っている
間もなく私は 薄暗い岸辺に
美しい地上から遠く離れた岸辺にいるだろう

そこでは太陽も星も輝かず
歌も響かず 友もいない
最後の涙を受け入れてくれ おお 遥かなるものよ
この疲れた眼は 遙かなるもののために泣くのだ

もう私は 青ざめたダナイスたちを
呪われたタンタルスを見ている
忘却が お前の昔ながらの川が
死をはらむ平和をつぶやいている

忘却を私は二重の死と呼ぶ
私があらんかぎりの力で得たものを
失って 再び得る―
この苦しみはいつ終わるのか いつ?


Franz Schubert. Neue Ausgabe sämtlicher Werke. Hrsg. von der Internationalen Schubert-Gesellschaft. Kassel,Basel,Tours,London (Bärenreiter-Verlag) 1967- . Serie IV. Lieder: Vorgelegt von Walther Dürr. Bd. 11. 1999 ,S. 79-83.

この詩は、シラーの「タルタルスの群れ」Gruppe aus dem Tartarusから刺激を受けて作られたということで、タルタルス同様、黄泉(よみ)の世界が描かれています。ここで冥界に関する難解なことばの意味をとってみましょう。まず「ハデス」Hades。ハデスは元来黄泉の国の意味ですが、後に黄泉の国の神を表すようになりました。「ダナイス」Danaiden に関しては諸説ありますが、穴のあいた壺で永久に水を汲むことを強いられた50人の娘たちのことです。タンタルス Tantalus はゼウスの子で、水や食べ物を目の前にしながら、飢えと渇きに苦しむという神罰を受けた者。レテ Lethe は忘却の川。この川の水を飲むと、生前のことを全て忘れてしまいます。

この曲はニ短調ですが、第1節最後の行「美しい地上から遠く離れた岸辺にいるだろう」の詩句でヘ長調に転調します。最後の節はレチタティーヴォとして歌われ、もう一度第1節の詩が繰り返されますので、ダ・カーポ・アリアのような効果があり、さらに美しい地上を描くヘ長調で終わることとなります。私にとってシューベルトのリートを調べる楽しみのひとつは、シューベルトがどこに感情移入し、それをどのように表現したかについて考えることです。詩は恐ろしい冥界を描き、「この苦しみはいつ終わるのか いつ」と永遠の苦しみを暗示して終わるのですが、リートでは第1節の繰り返しと転調により、美しい地上への思いが余韻を残します。ここにシューベルトの優しさと主人公への同情がこめられているようです。
マティアス・ゲルネが、シリーズでハルモニア・ムンディから、自ら選集したシューベルト歌曲を出していますが( Schubert. Sehnsucht. Matthias Goerne Schubert Edition. harmonia mundi. HMC 901988) 、その最初に選ばれたのが、この「ハデスへの旅」。ゲルネのCDのおかげで、おそらくこの曲は以前よりよく聴かれるようになったことでしょう。

(訳、記述 2005.12.15 改訳、追記 2008.8.13. 渡辺美奈子)

( 2008.08.14 渡辺美奈子 )


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