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Gruppe aus dem Tartarus   Op.24-1 D 583  
 
タルタルスの群れ  
    

詩: シラー (Friedrich von Schiller,1759-1805) ドイツ
      Gruppe aus dem Tartarus

曲: シューベルト (Franz Peter Schubert,1797-1828) オーストリア   歌詞言語: ドイツ語


Horch ― wie Murmeln des empörten Meeres,
Wie durch hohler Felsen Becken weint ein Bach,
Stöhnt dort dumpfigtief ein schweres,leeres,
Qualerpreßtes Ach!

Schmerz verzerret
Ihr Gesicht,Verzweiflung sperret   
Ihren Rachen fluchend auf.
Hohl sind ihre Augen ― ihre Blicke
Spähen bang nach des Cozytus Brücke,
Folgen tränend seinem Trauerlauf.

Fragen sich einander ängstlich leise,
Ob noch nicht Vollendung sei?
Ewigkeit schwingt über ihnen Kreise,
Bricht die Sense des Saturns entzwei. 1)

聞け ― 怒り立つ海のざわめきのように 
空洞の岩底を通って 渓流が泣くように
そこでは湿っぽく深く 苦しみに打ちひしがれた
嗚呼という声が嘆く

苦痛が彼らの顔を歪め
絶望が罵りながら
大きく口を開く
眼は虚ろで 彼らの眼差しは
コチュトスの橋を不安そうに伺い
涙を流しながら 悲しい流れを追う

互いに不安そうに静かに尋ねる
まだ完全に終わってはいないのかどうかと
永遠が彼らの上で揺れ動き
サトゥルヌスの大鎌を二つに折る


ことばの意味を取り上げてみましょう。まずタルタルス Tartausですが、これは冥界の最も深い底の部分で、神に背いた者が落とされるところとされています。コチュトゥス Cocytus (『新シューベルト全集』では Cozytus と綴られています)は黄泉の国「ハデス」にある「嘆きの川」のことです。サトゥルヌス Saturnus(ローマ神話)は農耕の神ですが、ギリシャ神話のクロノスKronosと同義で時を司り、後に「死神」の意味で使われるようになりました。

 シューベルトのシラー歌曲は、何度か作曲が試みられていることが多く、この詩も3種の稿が残されています。(D 65 一部三重唱カノン、リートD 396、 D 583)ここで取り上げるD 583 の前奏では、同音反復を伴い、最初の2小節でピアノからフォルティッシモにまでクレッシェンドします。続いて半音上行して模倣され、独唱が入ってからも、さらに半音上行して引き継がれます。このような半音階的模続進行は、「悪魔の挽き臼」”Teufelsmühle”と呼ばれ、たとえばバッハの「マタイ受難曲」Matthäus-Passion BWV 244 ではイエスの死後、「見よ、神殿の幕が真っ二つに裂け」の部分で「地が震え、岩が裂け、墓が開き、そこに眠る多くの聖者が起き上がった」の通奏低音に表れます。この進行はモーツァルトやベートーヴェンにも使われ 2)、シューベルトの作品では、たとえば『冬の旅』Winterreise D 911の「道標」最後の節第1-3行「道標が見える/ 不動のまま 僕の眼の前に/ 僕は歩まなければならない」の箇所で使われています。
 「タルタルスの群れ」ではほかに「悪魔の音程」と言われる三全音が使用され、「悪魔の挽き臼」とともに冥界の恐ろしさ、果てしない苦しみの続くタルタルスの世界が描かれています。けれどもとりわけ魅力的なのは後奏。同音反復を含む旋律短音階下行形が、2オクターブ間に渡ってそれぞれオクターブで奏され、同音反復が続き、全ての音が止んだ後、最後に高音で悲しいアルペジオが鳴ります。このアルペジオは、シューベルトの悲しみ、憐れみが凝縮されていますので、全曲中最も魂を込めて弾いてもらいたいです。

註)
1) Franz Schubert. Neue Ausgabe sämtlicher Werke. Hrsg. von der Internationalen Schubert-Gesellschaft. Kassel,Basel,Tours,London (Bärenreiter-Verlag) 1967- . Serie IV. Lieder: Vorgelegt von Walther Dürr. Bd. 2 Teil a. 1975,S.13-19.
2) Dittrich,Marie-Agnes: Harmonik und Sprachvertonung in Schuberts Liedern. Hamburger Beiträge zur Musikwissenschaft 38. Hrsg. von Constantin Floros. Hamburg (Verlag der Musikalienhandlung. Karl Dieter Wagner) 1991,S.215f.

(訳、記述 2005.12.15 改訳、追記 2008.8.14. 渡辺美奈子)

( 2008.08.14 渡辺美奈子 )


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