The Garland Mother and Child |
花輪 母と子 |
Roses blushing red and white, For delight; Honeysuckle wreaths above, For love: Dim sweet-scented heliotrope, For hope: Shining lilies tall and straight, For royal state; Dusky pansies,let them be For mernory; With violets of fragrant breath, For death. |
赤と、白いバラは 喜びのしるし その上のスイカズラの花束は 愛のしるし ほのかに甘い香りのヘリオトロープは 希望のしるし 輝く大きなユリは 高貴さのしるし ほの暗い色のパンジーは、そう 思い出のしるしにしましょう そしてかぐわしいスミレは 永遠の別れのしるし |
イギリス歌曲の中でも、麻薬のように一度はまったら抜けられない強力な魅力を放っているということでは、このJohn Ireland(1879-1962)の右に出る人はそうはいないでしょう。未聴ですが最近Hyperionから2枚組のアイアランド歌曲集が出て、いよいよ大々的にブレイクも近いかなと期待させるこの頃ですが、イギリス音楽ファンの方、いかがなものでしょうか?
彼の音楽の魅力は、パーセルやダウランドの音楽を思い起こさせる上品な響きとアイルランド民謡の素朴さに、ドビュッシーやラヴェルの精緻な和声や色彩感を盛り込んだところにあります。その意味ではこの歌曲というジャンルはまさに彼の本領発揮といっても良く、1曲1曲が素晴らしい輝きを放っています。
とても懐かしいメロディなのに新鮮、アイルランドやスコットランドの伝統音楽はヒーリング・ミュージックとしても重宝されていますからその線で売り出しても受けるのではと思うことさえあります。
ご紹介したこの曲は、イギリスの女流詩人、クリスティーナ・ロセッティの詩に付けた8曲からなる歌曲集「母と子」の最終曲です。
この歌曲集、赤ちゃんが生まれた時のじわっとくる喜びから始まり、子供と一緒に過ごす幸せが何曲か歌われたあと、不幸にしてその子を死なせてしまい、深い悲しみへと沈んでいくのですが、喜びのシーンでもハメを外さず、悲しみもグッと抑えたものにしているのが印象的で、限りなく美しいメロディと共に忘れがたい歌曲集となりました。
最後のこの曲、柩の中に花を飾っているシーンを歌っているのだと思いますが、よく詩を聞き取らないと、花の美しさを賛えている歌のようにも聞こえてしまいます。歌詞をじっくり読んでみて、なんと重い歌だ!と戦慄を覚えました。それでもメロディーはあくまで控えめに優しく歌います。
ETCETERAにある、R.A.モルガンの優しいメゾソプラノで聴くこの歌曲集はまさに曲のイメージそのまま、他にも遠い昔を懐かしむようなアイアランドメロディーが次から次と出てきてとても素敵です。タン・クローネの美しい伴奏も見事。
イギリス音楽ファンのみならず、すべての歌曲ファンにお勧めしたい名アルバムです。
( 1999.11.01 藤井宏行 )
この曲を初めて聴いたときはロセッティが子供の生から死への物語の連作詩集を書いたのかと思っていましたが、そういうストーリーになるように詩を選んだのは作曲者だったようです。各曲のタイトルも作曲者によって付けられたもののようですが、たとえそうだとしてもこれはとても素晴らしい歌物語。英文学者の安藤幸江さん他が翻訳したこのロセッティの童謡集を最近見つけることができましたので、その訳詩も参考にしながらこの歌曲集も全訳に向けてこれから少しずつUPしていきたいと思います。
この本の中でも幼くして失った子を悼むような重たい詩が、アイアランドが取り上げたもの以外にもたくさん取り上げられていて、そんな理不尽な死が子供たちの身近にもあった時代には、童謡でもそんな歌が歌われていたのですね。
そういったものを子供の目の前から完全に隔離してしまうことが果たして幸せなことなのか、そんなことを思いながらこの童謡集を読ませて頂きました。
最後のフレーズFor Deathを前から私は「永遠の別れのしるし」としていました。今回原詩も載せるにあたってここを「死のしるし」にしようかどうか悩んだのですが、やはり変えきれませんでした。このあまりにも美しい歌曲集を「死のしるし」でどうしても締めることが私はできなかったのです。
シング・ソング童謡集―クリスティーナ・ロセッティSING‐SONG A NURSERY‐RHYME BOOK訳詩集
クリスティーナ ロセッティ (著), 安藤 幸江 (翻訳) 文芸社
( 2007.01.06 藤井宏行 )